テクノロジーの活用で変革する「薬剤師」の役割と価値

テクノロジーの活用で変革する「薬剤師」の役割と価値

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薬局や薬剤師を取り巻く環境が変革期にある。特に薬機法が毎年のように変化しており、新たな医療の基軸が創成されていると言えよう。

こうした状況のなか、テクノロジーをどのように活用していけば、医療におけるDXが有機的に推進されていくのか。

Healthtech/SUM 2021では「薬局と医療のDX ~薬機法改正に込められた想いとテクノロジーによる実現可能性」をテーマにしたセッションが行われ、薬機法改正による薬局や薬剤師の役割の変化や、それにまつわるテクノロジーのあり方について議論がなされた。本記事では、その様子をレポートしていく。

登壇者
・太田 美紀氏(厚生労働省 医薬・生活衛生局総務課薬事企画官)
・中尾 豊氏(カケハシ 代表取締役社長)

アメリカやエストニアに見る日本との医療の違いとは?

まずは、厚生労働省にて薬事企画官を務める太田氏より、海外の医療における現状について説明がなされた。

「アメリカではOTC薬(一般用医薬品)が安価で種類も多く、患者の方も医療機関へ行く前に、まずは薬局やドラッグストアでOTC薬を買い求めることが主に行われています。その影響もあり、CVSやウォルマートのような大きなドラッグストアが活躍している状況になっています。

一方、処方箋による医薬品ではどういうことが起こっているかというと、2017年のデータでは、年間38億枚の処方箋のうち20%は薬が出ておらず、さらには40%の割合で服薬がしっかりとなされていなかったり、量が出なかったり、期間が間違っていたりと不適切な利用がなされています。つまり、処方箋の6割に何かしらの問題が起こっている状況となっています」(太田氏)

アメリカでは患者への利便性を高めるため、ベルトコンベアー式に処方箋データを受け付け、調剤やチェック作業を経て郵送する流れになっているという。このような“超”効率化を追求するあまり、拠点の集約化が必要となり、患者一人ひとりへの服薬指導や説明が不十分になっているというのだ。

患者自身の服薬に対する理解が浸透していなければ、当然、不適切な利用にもつながってしまうだろう。他方、「電子医療のロールモデルと言える国がエストニア」だと太田氏は続ける。

「ヨーロッパの中でも人口130万ほどと小規模な国にも関わらず、『電子国家』と呼ばれるほどテクノロジーが発達しているのがエストニアです。電子国家といわれる所以としては様々なポイントが考えられますが、その中でも、政府の打ち出す方針に対してソフトウェア開発やデザイン設計のコンペが民間で行われ、政府が積極的に民間のアイデアやサービスを活用する仕組みが整っていることをここでは挙げたいです。そのため、医療分野だけではなくさまざまな分野での電子化が進んでいる状況です」(太田氏)

エストニアと言えば、1991年の旧ソ連からの独立後から行政システムの電子化を進め、1997年には国家戦略として「e-Governance」を推進。X-Roadと呼ばれるシステム基盤をベースに、結婚・離婚・不動産売買を除く全ての行政手続きの電子化を実現している国で有名だ。

「日本では電子処方箋の構築に取り組んでいる最中ですが、エストニアではすでに処方箋の99%が電子処方箋になっています。エストニアの電子化においてはX-Roadという技術が使われており、さまざまな医療機関や薬局のデータを共有し、一元管理ができるようになっています。さらには、重複投薬や併用禁忌などを検出してアラートを出してくれるツールも備わっているので、機能面でも優れています」(太田氏)

薬機法改正のポイントは「調剤後のフォロー義務化」と「機能を有する薬局の見える化」

一方、日本では全国に約6万件の薬局が存在し、その数はコンビニよりも多くなっている状況だ。その要因としては、医薬分業の推進に伴う薬局や薬剤師数の増加が考えられるわけだが、果たして患者や国民への効果は出ているのだろうか。

太田氏は「正直なところ、効果があるとはまだ言えない状況だと思う」と自身の考えを吐露する。

「今回の薬機法改正は、患者や国民の方々へ薬局や薬剤師の役割、意義をしっかりと認識してもらうために必要なところを、明確に法律で位置づけた点が重要です。具体的には大きく2つのポイントがあり、1つ目は『薬の専門家としての薬剤師の役割強化』です。実は1年に承認される新薬の数は100件以上に上ります。医療が伴うにつれ、当然のように新しい医薬品も承認されてきていて、医療のなかでも医薬品は非常に重要な役割を担っています」(太田氏)

つまり、薬剤師が医薬品の効能や作用を正確に把握し、患者にどのような効果があるのかを管理していく必要があるということだ。

「そして2つ目は『地域医療の拠点としての薬局機能強化』です。全国の数多ある薬局がしっかりと機能を持ち、地域医療の拠点としての役割を果たしてほしいという思いがあり、今回の薬機法改正にも組み入れた内容となっています。特定の機能を有する薬局に関して要件を定め、認定することによって、患者にとっても『薬局の見える化』が図れるのが目指すべき姿になります」(太田氏)

薬剤師の役割が増えるほど、テクノロジーの活用が肝になる

具体的な内容について、薬剤師は「薬を渡すまでだけではなく、飲んだ後まで」をフォローアップしていくことが求められるという。

「患者が医療機関を受診し、次回の受診日までに薬を服用している期間では、実に色々なことが起こります。この期間においても薬剤師がフォローして、次の受診につなげていく体制を強化していく必要性があります。また、超高齢社会が到来し、患者も高度な医療を受けるにあたって、さまざまな療養環境へ移行するといったことが考えられます。そうした際に、複数の療養環境の連携を薬局が拠点として取り持ってもらう役割を強化することが、地域連携薬局として活躍していく上で大切になってきます」(太田氏)

こうした連携や服用後のフォローが増えると、従来の薬剤師の仕事である「調剤をする業務」以外にも、健康サポートや臨床現場からのエビデンス発信を担うなど、役割がより多様化してくる。

しかし、役割が増えれば増えるほど、それだけ薬剤師の負担も相当なものになるのは目に見えていることだろう。そこで、テクノロジーを活用し、薬剤師の業務効率化や充実化していくことが今後期待されるわけである。

「どの患者が、どのタイミングで、何に困っているのか」を把握することが大事

次に、調剤薬局向けサービス「Musubi」を展開する株式会社カケハシの代表取締役社長・中尾氏からは、現場で活用されるテクノロジーの“いま”についての説明がなされた。

「薬剤師が患者さんへのフォローアップをする際の現場の課題点としては、こちらの一覧(上図)のようなものが挙げられます。そんななか、薬剤師が効率的に付加価値を与えていくには、『どの患者さんが、どのタイミングで、何に困っているのか』を把握することが大事になります。弊社では、自動で患者さんの薬に関わる問題点を抽出する『Pocket Musubi』というソリューションを提供しています。入り口は非常に簡単で、薬剤師はLINEでQRコードを読み取ってもらうだけになっています」(中尾氏)

具体的には上のフロー図のとおり、処方された薬をアプリで分析し、患者に対して薬学的なノウハウを自動送信するという流れになっている。さらに患者ごとに適した薬の質問が送られるので、何か困ったことがあっても明確に回答でき、もし問題や悩みを検知したら薬剤師の管理画面に通知がいき、フォローがしやすい体制にもなっているという。

患者にとってはLINE上で「質問に回答する」というシンプルなサービスの設計になっているが、薬剤師にとっては薬学的・臨床的な判断の上、どういうコミュニケーションを取ればいいのかということに集中できるため、患者の問題解決に寄り添えるというわけだ。

さらに、現場での実例について中尾氏は次のように続ける。

「とある患者さんから、処方された薬を服用しているとときどき日中に眠気を感じる症状がある、との回答がありました。その様子から、薬剤師は薬の副作用の症状を検知し、患者さんへ『眠気がひどければ、次回の受診時に先生へ相談するといいかもしれない』と助言したところ、眠気の少ないタイプの薬へ処方変更が起きたのです。要は、薬剤師のちょっとした働きかけで、患者の方の行動をも変えることができ、心理的安全性の担保にもつながるわけです」(中尾氏)

テクノロジーが発展しても、薬剤師と医者の医薬分業体制を作るのが大切

また、Pocket Musubiを運営するなかで中尾氏は、「薬学的な問題が潜んでいるアラート率の割合は約39%にも上る」ことに気づいていったという。

「質問回答率が高いのもそうですが、こうしたアラートを発見できるのは『この薬は、こういう問題が起きているかもしれませんが大丈夫でしょうか』という“具体な質問”が上がってくるからだと考えています。これが普通に、『お薬は問題ありませんか』という定型文で送ってしまうと全く反応しない。なので、こういう問題をいかに浮き彫りにさせ、生活のなかで医療従事者である薬剤師が解決してあげる世界を作っていくことが大切だと考えています」(中尾氏)

加えて、質問回答率は70代が最も多く、アラート発生率に関しては30代が最も高い割合を示したという。

「このデータからわかるのは、薬剤師のフォローアップが義務化された際に、『60代の患者さんでハイリスク薬が処方された際はフォローしよう』と決め打ちで考えるのは本質的でないということです。実際に起きている問題をファクトして捉え、問題が顕在化されてから解決する。それを効率的かつ幅広く行うことが大切だと思っています」

今回の薬機法改正によって、薬剤師のフォローアップ義務化や薬局の地域連携の方向性が定められているが、中尾氏は「薬局から薬局に行くまでの間に、アプリの中で薬剤師とのタッチポイントが増えれば、患者さん自身も薬に対する意識を高めてもらうことにつながる」と、そのあるべき姿について考えを述べた。

「医療機関に共有すべき患者さんの副作用の症状や状況といった情報が集まり、可視化されることで、トレーシングレポートも出せるようになります。地域医療連携のポイントは『医者も知らない情報を、薬剤師が知れるかどうか』にあります。薬に対する問題発見や解決、情報連携は薬剤師の役割で、医者はその情報を得た上で診察するというように、医薬分業で棲み分けしていくことが求められるだろうと考えています」(中尾氏)

医療の高度化が進めば、薬剤師の役割はより重要になる

続いては登壇者同士のトークセッションが行われた。

最初のテーマは、中尾氏から投げかけられた「医療全体から見た、薬剤師に求められる価値」について。

「私も現職に着任して以来、ずっと薬剤師の役割を考えていますが、一番の価値や意義は『薬の特性を知っていること』です。薬に関してプロフェッショナルであり、多様な医薬品があるなか体へのリスク・ベネフィットを把握した上で、患者さんをみることができる。そこでの気づきは、医師だけではなかなか得ることができないからこそ、そこをもっと引き出していくといいのではないかと思っています。これからさらに医療の高度化が進めば、薬で治せる病気もたくさん出てくるでしょう。薬を利用する側にとっても、薬剤師の役割はより重要になってくるのではないでしょうか」(太田氏)

さらに中尾氏は「医療におけるテクノロジーの所感についても伺いたい」とし、太田氏へ質問を投げかけた。

「テクノロジーと聞くと、正直なところ『安い、早い』ではありませんが、効率的で早さを求める技術を想定していました。今回、中尾さんの話を聞いて感じたのは『そこだけではない』ということです。薬剤師の役割を充実させるための一つの手法として、テクノロジーが助けてくれるという側面もあることに気づきました」(太田氏)

一方で、様々な領域にテクノロジーが浸透すると、人間と機械の区別がつかなくなってくるかもしれない。中長期的な目線で、テクノロジーはどこまで進化するのか。あるいは薬剤師の役割はどのように変化していくのだろうか。

これについて中尾氏は「究極的に考えたとき、結局患者さんの安心感は無機質な数字の提示だけでは満たされない」と自身の見解について語った。

「重要なことは、数字の意味をちゃんと説明したり次のアクションを示してあげたりと、専門家として寄り添いながらアドバイスをすることです。テクノロジーでできることはかなり限定的だと思っていて、専門家としての知識や人としての温かみなどが肝になってくるでしょう」(中尾氏)

中尾氏の意見を聞いて、太田氏は「テクノロジーが進歩するのに合わせ、その使い方がキーになる。テクノロジーを使う側の教育や意識の持ちようも大事になってくると思う」と続けた上で、今後の展望を語り、セッションを締めくくった。

「薬局は数多くありますが、我々が気軽に入れるような薬局は、まだまだ多くはありません。私自身が「こうあったらいいな」と思う薬局のあり方は、地域のなかで健康を気にしたときに、薬をもらうこと以外にも信頼できる場として存在する薬局です。そんな空間があると、個人にとっての安心感につながると考えています

私自身がこのような思いをもっているため、薬剤師の前で講演をさせてもらう際は、『もっと、外に出ていってください』とお伝えするようにしています。薬を正確に間違いなく揃える調剤も大事な仕事ですが、他の医療職種との連携や地域の活動へ積極的に出ていくことも非常に大切なことです。テクノロジーを活用し、こうした活動に費やせる時間を捻出することで、薬剤師の仕事はさらに充実していくのではないでしょうか」(太田氏)

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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