ビジネス系YouTubeチャンネルで登録者35万人突破。急成長の舞台裏を探る| 株式会社muse 代表取締役 勝 友美
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YouTubeで今、彗星のごとく現れた1人の女性経営者に注目が集まっている。
それが、オーダーメイドスーツブランド『Re.muse』を展開する株式会社muse 代表取締役の勝 友美氏だ。
勝氏は2020年11月に『勝 友美-VICTORY CHANNEL-』を立ち上げてからわずか1年半足らずで、チャンネル登録者35万人を突破するまでにYouTubeチャンネルを急成長させた。それもゲーム実況などのエンターテイメントと比べて視聴者数が少ないと言われる「ビジネス」をメインテーマに結果を残している。
さらに、その効果は本業にも好影響をもたらし、オーダーメイドスーツの受注も伸び続けている。
しかし、museはもともとデジタルの活用に長けていたわけではない。それにもかかわらず、なぜこのような成果を挙げられたのかーー。
そこで、xDX編集部は勝氏への取材を敢行。今回はその内容を2回にわたってお届けする。
前編では、勝氏がYouTubeを始めた経緯から、YouTubeチャンネル立ち上げを通じて得た「成功法則」をお伝えしよう。
*YouTubeのチャンネル登録者数は2022年3月6日時点のものです。
インタビューイー
勝 友美
株式会社muse 代表取締役。アパレル販売員から始まり、入社初日でトップセールスとなる。
ヘッドハンティングにより国内外でのスタイリスト経験を経た後、テーラーの世界へ転身。
28歳で自社ブランド『muse stylelab』を立ち上げ、独立。
「夢を叶えるヴィクトリースーツ」として多くのエグゼクティブより支持を受け、現在に至る。
2017年6月、ブランド名を『muse style lab』改め『Re.muse』へ改名。
著書に『営業は「バカ正直」になればすべてうまくいく!』(SB クリエイティブ)
2018年2月、9月にテーラーとしては日本初のミラノコレクション出場を果たす。
10月にはインドファッションウィークに出場。 NHK、日本テレビを始め、多数のメディアに取り上げられている。
立ち上げを後押しした「人との縁」
ーーまずは、YouTubeチャンネルを立ち上げた経緯を教えてください。
勝 様々な理由の中で、最も大きかったのは「ブランド認知度の向上」です。
「Re.museのスーツを着るのか着ないのか、生きているうちに選択してほしい」と発信している一方で、どれだけの人がRe.museをご存知なのかを振り返ると、やはり認知度を上げなければ自分の言葉に責任が取れないのではないかと感じました。
一方で、中途半端な形で参入してもうまくいかないのは目に見えていました。
もともと、多くの方から「YouTubeをやった方がいい」と言われてきたのですが、踏み込めなかったのは、甘い世界ではないことを理解していたからでもあります。
ーーそれにもかかわらず、参入を決断できたのはなぜですか?
これも色々な経緯がありますが、ある時、YouTubeに関する書籍を読んでいたら、このようなことが記されていました。
「YouTubeを始めた人のうち、95%はやめている」。
これは、私にはとてもありがたいことでした。なぜなら、続けるだけで残りの5%に入れるからです。店舗を運営するリアルビジネスで、このようなことはありえません。
この言葉をきっかけに、YouTubeを始めることに徐々に前向きになれました。そして、それと並行する形で、色々な「ご縁」も生まれてきました。
ーーどのようなご縁ですか?
まず著名なYouTubeクリエイターの方々が私に会いに来てくださいました。私が過去に出演した番組や講演の様子がYouTubeで公開されていて、それを観て興味を持ってくださったようです。
そして、すでにYouTubeでチャンネル登録者100万人を超えているような方からも「絶対YouTubeをやった方がいい」と後押ししていただきました。これは、とても心強かったです。
あと、YouTubeチャンネルを運営するにあたって、現在ご支援いただいているWebマーケターの方との出会いも、象徴的な出来事でした。
共に成功する、ビジネスパートナーの選び方
ーーDXにトライする企業のように、何か新たなジャンルに参入する際は「パートナー」の存在がとても重要です。なぜ、そのWebマーケターの方をパートナーに選んだのでしょうか。
最大の理由は「フィーリング」です。
ある事象を共に考える過程で、本質の捉え方や物事の掘り下げ方などの感覚がマッチして、「この人なら信頼できる」と感じられました。
あと「世界一になった経験がある」のも大きかったですね。良い意味で少し変わった経歴をお持ちの方で、あるオンラインゲームで世界一になった実績があります。その看板や重圧を背負っている空気感は感じ取れましたし、「目標の立て方」も私の想定より高いものを掲げてくれました。
ーー実際、どのような目標を立てたのですか?
「まずは、チャンネル登録者10万人を目指しましょう」と言われたのを、はっきりと覚えています。
ーー現在のチャンネル登録者数から考えると、決して大きな目標ではないように感じますが。
チャンネル開設前の私からすると、壮大な目標のように思えました。
当時からYouTubeは参入者が飽和していて、厳しいと言われていました。また、ゲーム実況などのエンタメ系ではなくビジネス系のチャンネルということもあり、10万人を目指そうとは思ってもいませんでした。
しかし、その方は私の想定をはるかに超える目標を提示しました。正直、自分が考えている以上に大きな目標を提示する方に、ほとんどお会いしたことがなかったのでこれは衝撃でしたね。
ーーそのWebマーケターの方は、YouTubeチャンネルを立ち上げた実績などはお持ちでしたか?
特に提示はありませんでしたし、私からも確認はしていません。個人的には、一緒に実績を作っていくことが好きで、すでに実績があるかどうかは関係がありませんでした。
もちろん、これには異論もありました。YouTubeチャンネルの立ち上げを支援するとオファーをくださった方の中には、すでに業界でも有数の実績をお持ちの方もいらっしゃいました。YouTubeチャンネルに関わっているスタッフからは「なぜ、その方から支援を受けないのか?」と言われたほどです。
しかし、私は自分と一緒に仕事をしたことによって、自分の成功はもちろん、パートナーの方にも絶対に成功して欲しいと願っています。
だからこそ、過去の実績の有無は関係ありませんでしたね。
チームを超え、「ファミリー」を築く
ーー最終的に、YouTubeチャンネルを立ち上げようと決断されたのはいつですか?
2020年8月です。それから3ヶ月ほど準備して、チャンネルを開設しました。
ーー当初は何から着手しましたか。やはり動画の企画や収録などでしょうか。
いえ、まず最初のミーティングで自分の考えを伝えることから始めました。今でも覚えていますが、スタッフの方々に「私のことを好きになるつもりでやってください」と伝えました。
ーーその真意について教えてください。
例えばアパレルショップの店員なら、自分が販売しているブランドの服が好きな店員の方が、そうでない店員と比べて販売着数が段違いに多いものです。実際、この業界に長くいると、そのような現象をよく目にします。
そう考えると、YouTubeチャンネルも一緒ではないかと思いました。実際、『勝 友美-VICTORY CHANNEL-』と私の名前を冠しているので、まずは身近にいるスタッフに私のことを好きになってもらえるかが成功への大きな鍵になります。
もちろん実際に好きになってもらえるかは、自分次第ですが、私のことを好きになってもらうつもりで向き合ってもらえなければ、動画の先にいる人々が「ファン」になってくれることは、まずないだろうと考えていました。
ーーまさに「チームビルディング」からスタートしたわけですね。
チームというか、YouTubeチャンネルに関わる方々と「ファミリー」を築く感覚です。
ーー「ファミリー」ですか?
サポートしてくださっているWebマーケターの方のことは、museの社員のように感じていますし、動画の制作に関わっている担当の子は、私たちの子どものような感覚です。
もちろん、私が直接顔を見たことがない編集スタッフの方々などもいます。しかし、その方々を含めてファミリーであり、個人的にはその方々を背負っている責任感も感じながら、日々の収録に挑んでいます。
だからこそ、ここまで伸ばすことができたのかなと思います。
ーーファミリーになったと感じる場面などは、これまでありましたか?
苦しい時も、YouTubeチャンネルの成功を信じてくれたことですね。
チャンネル登録者10万人という高い壁を超えるために、私だけでなくスタッフも途方もない時間と労力を注ぎ込んでくれました。しかし、チャンネルを開設してから3000人くらいまでは順調に伸びたものの、そこから半年ほど停滞の時期がありました。
1日かけて収録して、動画を毎日のように公開しても伸びない。正直、「やっぱり、自分はこの程度か」と思うこともありました。
しかし、メンバーは諦めることなく挑みました。理由はわかりませんが、なぜか全員が「何か突破口がある」と信じていました。ひたすら改善策を考え、トライして、また改善策を考える。
このストレスからよく逃げなかったと思いますし、あそこまでやり切ったからこそ「YouTube ショート(※)をメインにしよう」と思い切った決断ができたのではないでしょうか。
信じてやり続けた結果、2021年8月には1ヶ月でチャンネル登録者を10万人以上増やすことができました。
ーースタートしてちょうど1年ほどですね。
そうなんです。そして、この長い停滞期を抜けてチャンネル登録者が10万人を突破した時に、思わぬサプライズもありました。
編集担当の子がお祝いのシャンパンを持ってきて、しかもそれはチャンネル開設当初に購入して、ベッドでずっと眠らせていたものだったのです。
この時は正直、泣きそうになりましたね。
※YouTube ショート:YouTubeが2021年3月に提供開始した、短い形式の動画共有プラットフォーム
YouTubeチャンネルを急成長させる「成功法則」とは
ーーファミリーを束ねる勝さんご自身が、YouTubeを始めて変化したことはありますか?
「許容する」という感覚は、開設当初から大きく変化しました。
その1つが「クオリティ」です。YouTubeチャンネルはテレビなどのマスメディアとは異なります。でも、マスメディアのクオリティを求めてしまうと、そこに関わる人々が疲弊してしまう。
だからこそ、自分が許容できる範囲を広げる必要があると感じました。
また収録も、まず自分が完璧に話すことを心がけて臨みました。撮り直しがなくなれば、その分収録できますし、効率も良くなる。台本など一切なくぶっつけ本番でしたが、全部一発でやり切ると決めました。
ーーここまでYouTubeチャンネルの立ち上げから振り返っていただきましたが、YouTubeチャンネルを成功に導くには何が必要だとお考えですか?
大きく3つの要素が求められるでしょう。
まず1つ目が「継続力」です。冒頭のお話しにも関連しますが、続けられないのは「メンタル」だけでなく「お金」の問題もあります。
バズるかどうか配信してみないとわからないことに、ひと月に多い時で数百万円も投資していると、それを回収できる確率が徐々に下がってしまいます。そうすると、損切りした方がいいという決断になる。
この葛藤を乗り越えられるかどうかが、最初のポイントです。
2つ目は「専門性」です。私を支援してくださるWebマーケターの方は、YouTube Studioのアナリティクスなどからデータを徹底的に洗い出し、バズるための施策を見出してくれます。
このようなエキスパートの存在は、YouTubeチャンネルの成長に欠かせません。
そして、最後の要素は「魅力」です。これは、知名度や見た目、トークの巧さなども要因になりますが、最も重要なことは「発信するメッセージ」です。
『勝 友美-VICTORY CHANNEL-』では、「夢を持って生きる大切さ」を伝え続けています。このメッセージが視聴者の心を動かすか、最終的な結果に大きな影響を与えるでしょう。
ーーチャンネル登録者数も35万人を突破し、順風満帆のように見えます。しかし、あえて課題を挙げるとしたら、何がありますか?
現在はチャンネル登録者100万人を目標に、さらなる成長を目指しています。
しかし、その目標を実現する上で、また大きな壁にぶつかっていると感じます。
これを超えるために、現在も改善の日々です。その内容は、次回お話ししましょう。
▶︎この記事には後編があります