効率が悪い産業ほど、Web3を絡めることで新たなイノベーションが生まれる 〜NFT Summit Tokyoレポート
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Web3はさまざまな産業に変革をもたらす可能性を秘めている。
NFTやメタバース、DAOなどを活用することで、既存の商流では成し得なかった顧客とステークホルダーとのコミュニティ形成、ビジネスの課題解決などが期待できる。
だが、Web3の持つ最新テクノロジーをいかに現状の業界へ浸透させ、実運用していくには決して容易ではない。
2022年12月13日から2日間開催された「NFT Summit Tokyo」では、「Web3×食~テクノロジーの力で既存課題を解決するには~」をテーマにしたトークセッションが行われ、有識者らによるWeb3×食の可能性と現状の課題についてディスカッションがなされた。
登壇者:
山川 勝人(株式会社フィナンシェ 執行役員)
岡部 典孝(JPYC株式会社 代表取締役)
藤澤 勇哉(ArtiLamps 代表取締役CEO)※モデレーター
各登壇者の取り組み概要
まずは各登壇者が、それぞれ取り組んでいる事業について紹介された。
フィナンシェの山川氏は「地方創生はWeb3とも相性がよく、農作物や食といったその土地ならでの特産品と絡めることで、新たな地方活性化のきっかけづくりができる」と述べる。
「現在、『三島ウイスキープロジェクト』(静岡県三島市)や黒毛和牛一頭買いの『KYUKON WAGYUプロジェクト』(熊本県菊池市)など、新しいまちおこしのあり方を模索しながら取り組んでいるような状況です」(山川氏)
日本円連動型ステーブルコイン「JPYC」を手がける岡部氏は、食の領域に参入した理由を次のように説明する。
「元々、⽇本におけるWeb3の社会実装を加速させ、より良い未来を創造していくことを念頭に置きながら事業を展開していました。そんななかで、KYC(本人確認)やAML(アンチ・マネーロンダリング)といった観点から、ステーブルコインにおける規制が強化され、それにかけるコストが増大したことで、新たなビジネスの軸となるものを探していました。
こうした状況下において、東京都の青ヶ島村でDAOを取り入れた島おこしプロジェクトを立ち上げたんです。通称、“DAOヶ島”と呼んでいるんですが、実はDAOと地元の漁業組合はとても相性が良い。ブロックチェーンの技術で漁業をアップデートしたいという思いから、現在は青ヶ島村と東京を行き来する生活を送っています」(岡部氏)
モデレーターの藤澤氏はミシュラン3つ星レストランの料理人として勤務したキャリアを経て、2020年12月にArtiLampsを創業。ブロックチェーン技術を生かした食文化の発展やクリエイターエコノミーの醸成に取り組んでいる人物だ。
「地方創生」や「1次産業」はWeb3と非常に親和性が高い
本セッションのテーマである「Web3×食」。登壇者らはWeb3企業として、最先端のテクノロジーに触れながらビジネスを展開しているわけだが、なぜ食の領域に進出したのだろうか。
山川氏は「Web3のコミュニティ形成と地方創生の方向性は近しいものがあり、地域を盛り上げていく上で、食は重要なテーマのひとつとして捉えている」からだと言う。
また岡部氏は「十分に効率化された業界・業種では、Web3の良さをあまり見出すことができない」とし、「1次産業に寄れば寄るほど、ブロックチェーンと親和性が高いと感じている」と持論を展開する。
「例えば、農林水産省の主催するビジネスコンテストでも、Web3を絡めるだけで一気に注目され、勝ちやすい。新しい農業のあり方を提案するよりも、Web3でいかに既存の農業や漁業を変えていけるか。未来を提示できるかに、関心が集まりやすいのではと考えています」(岡部氏)
岡部氏が行う青ヶ島村の島おこしプロジェクトについて、山川氏は「DAOやトークンなどを活用すれば、その場にいなくても離島支援ができるのが大きなメリットになる」とコメント。
岡部氏も「これまで関係人口を作ろうと、官民が色々な取り組みをやってきてはいるものの、なかなか可視化することはできなかった。それが、NFTを所有している数やDAOのコミュニティに入っている数など、関係人口を数量的に見ることができるのは、ひとつ大きな特徴だと思う」と見解を示す。
「効率が悪い産業ほど、Web3を絡めることで新たなイノベーションが生まれるのではと考えています。他方で、ステーブルコインの規制自体はいかようにもクリアできると思うものの、この先の未来においては不確定要素が高く、規制の条項のリスクに怯えながら事業を進めていては保守的になってしまい、イノベーションが生まれづらくなります。そういう意味では、リアルビジネスとWeb3を組み合わせることで、大義名分を果たしながらも世の中をより良い方向へと変えていけると思っています」(岡部氏)
DAOのコミュニティ形成は会社を創る意識で取り組むべき
山川氏は地方創生を実現する上で、「どのようにNFTを活用し、地方の町や村に興味を持ってもらう関係人口を作っていくかのが、設計が肝になる」と意見を述べる。
「Web3が注目され、DAOがバズワード化されていますが、『どこまでを中央集権で管理して、どこから分散化させていくか』の塩梅を考えるのが重要であり、同時に難しい部分でもあります。また、地域ならではの特産品を開発する際も『作るのはクリエイター(職人や地場産業の従事者)に任せる』ことが大事だと感じています。
フィナンシェが立ち上げたエンタメDAOのプロジェクト『SUPER SAPIENSS(スーパーサピエンス)』では、0→1部分は映画監督らに任せ、1→10や10→100を担うのはDAOのコミュニティがサポートしていく流れを作ろうと取り組んでいます。翻って地方の地場産業の職人は、何かを生み出すのに長けており、そこにDAOに参加してきた人がマーケティングや販路拡大、商品化をサポートするのが理想だと考えています」(山川氏)
加えて、「DAOは会社を創る意識でコミュニティ形成に臨む覚悟を持つべき」と山川氏は続ける。
「DAOはコミュニティマネジメント力が重要で、誰にどんなロールを付与し、コミュニティを活性化させるためにどんなファンクションを持たせるのか。あるいはどこをシステマチックにすることで効率化を図れるかなど、幅広い視点で物事を見る必要があります。言うなれば、DAOマネージャーは今後5〜10年後には職種として確立されるほど、求められるポジションになると予想しています」(山川氏)
DAOの運営で重要なことは、「中央集権」と「分散」の結節点を見つけること
フィナンシェでは現在、人口7~8万人規模の都市や街で地方創生プロジェクトを行うことが多いとのことだが、「“10万人の壁”と言って、あまり人口が多いところでプロジェクトを立ち上げると、どうしても反対勢力が出てきてしまう。コントロールできるちょうどいい規模感を見つけるのがDAOを運営する上で大事なこと」だと山川氏は話す。
「ビジョンを達成しつつ、トークンの価値も上がるようなエコノミクス設計も必要になります。その両方を意識しながら推進していく力や地場の企業を巻き込んでいく力、プロジェクトに取り組む自治体を本気にさせる説得力が、DAOマネージャーに求められるでしょう」(山川氏)
また岡部氏は、「少ないところに行って、まずは小さく始めるといい」と語る。
「イノベーションの本質は効率化すること。理想は関わる人みんなが収益機会を得られてハッピーになれることで、民間主導でWeb3の是非や規制緩和を求める対話が進み始めたのは、大きな一歩だと思っています」(岡部氏)
最後に、山川氏は「色々試行錯誤しつつ、フィナンシェが地方創生にもっと寄与できるサービスを作っていきたい」と抱負を述べ、会を締めくくった。
「フィナンシェもまだまだ課題があり、サービスのブラッシュアップが必要不可欠だと考えています。Web3業界では、規制関連の話が取り沙汰されておりますが、これから大事になってくるのは、ユースケースをどれだけ作れるかだと思います。とりわけDAOについては、本当に分散化だけ追求してしまうと、コンセンサスが取れなくなります。なので、実際のプロジェクトを運営するなかで『中央集権』と『分散』が折り合う部分はどこになるのかを常に考え、プロジェクト成功に向けて尽力していきたいと考えています」(山川氏)
取材/文/撮影:古田島大介
編集:長岡 武司