「DAOの多産多死」「ほぼオフチェーン」「Web3のIPがアカデミー賞受賞」。國光宏尚氏ら投資家達の予測

「DAOの多産多死」「ほぼオフチェーン」「Web3のIPがアカデミー賞受賞」。國光宏尚氏ら投資家達の予測

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2022年7月11日に開催された「Non Fungible Tokyo 2022」。国内外で急速にムーブメントが巻き起こっているWeb3とNFTをメインテーマとするグローバルカンファレンスでは、業界の各プレイヤーやVC、アカデミア等が一同に集結し、各テーマに沿ったディスカッションを展開した。

今回はその中から「次のWeb3トレンド」と題されるセッションを取り上げ、その模様をレポートしたい。先行きがまだまだ不透明なWeb3のトレンドを大胆にも予想し、現状の課題から未来への期待までを網羅したクロストークが繰り広げられた。

登壇者

  • 熊谷 祐二(Emoote ジェネラルパートナー)
  • 佐藤 崇(Arriba Studio Founder / CEO)
  • 國光 宏尚(gumi Cryptos Capital managing partner / Thirdverse・FiNANCiE CEO)
  • 金山 裕樹(MZ Web3ファンド アドバイザー)
  • 田中章雄(Headline Asia & IVC)※モデレーター

Web3特化のファンドを運営する有識者らが集結

まずは各登壇者の自己紹介が行われた。

ゲーム会社「gumi」の創業者であり、現在はブロックチェーンやメタバース、Web3の領域で複数の事業を手がける國光 宏尚氏は、投資家としての顔も併せ持つ人物だ。2022年3月に出版された著書『メタバースとWeb3』(エムディエヌコーポレーション)は、XR領域やAIなど新しい技術への知見のない人であってもWeb3とメタバース のインパクトを把握できる良書として多くの方に読まれている。

「今はVRやブロックチェーンゲームの企画・開発を行うThirdverse、ブロックチェーン技術を活用したNFT事業やトークン型のクラウドファンディング事業を手がけるFiNANCiE(フィナンシェ)、トークンにもエクイティにも投資するgumi Cryptos Capitalを運営しています。ファンドサイズでいうと、1号ファンドが2,100万ドル、2号ファンドが1億1,000万ドルとなっています」(國光氏)

続く金山 裕樹氏は、実業家の前澤 友作氏が立ち上げたWeb3特化型のファンド「MZ Web3ファンド」にてアドバイザーを務めている人物だ。

「ファンドサイズは約100億円で、國光さんと同様にNFTやトークン、エクイティを問わず、面白くて可能性がありそうなWeb3プロジェクトやDAOプロジェクトに投資をしています。今年4月に立ち上げたばかりのファンドですが、投資実績として、ロンドンのブロックチェーンゲーム企業・OpenBloxへ出資をしています」(金山氏)

Web3/NFT起業家支援に特化したシードアクセラレーター「Arriba Studio」で代表を務める佐藤 崇氏は、シンガポールを拠点として日系Web3スタートアップを中心にトークンやエクイティへの投資と事業支援等を行っており、今後さらに多様な若手スタートアップの支援を積極的に展開していく予定だという。

そして、ゲームを軸にIP事業を展開するアカツキが立ち上げたファンド「Emoote」でジェネラルパートナーを務める熊谷 祐二氏は、現在トークンに特化した形で投資を行っているという。

「エンターテインメントやメディア、ライフスタイルといったコンシューマービジネスを投資領域として捉えており、どうやってトークノミクスを描いていくのかを考えながら、事業を展開しています。現在はグローバルで25のプロジェクトに投資をしていて、代表的な投資先としてはSTEPNが挙げられます」(熊谷氏)

なお、モデレーターを務める田中 章雄氏は、Headline AsiaとInfinity Ventures Crypto(IVC)の2つのファンドを運営している人物。特にIVCはアジアでトークン出資に特化したファンドであり、現在170社のポートフォリオを有する、アジアで最もWeb3系企業に投資を実施しているシードファンドとして知られている。

Web3プロジェクトは「多産多死」を繰り返す

セッションの本題である「次のWeb3トレンド」については、事前に各登壇者に未来を占ってきてもらったものを、発表し合う形式でディスカッションがなされた。

まず先陣を切ったのは、MZ Web3ファンドの金山氏。未来予測は「Web3プロジェクトやDAOの多産多死」だという。その理由について、同氏は「基本的に全部のプロジェクトが成功する世界でなく、Web3が発展していくためには多くのトライアルが必要だと思っているから」だと述べる。

「当然ながら、Web3プロジェクトを立ち上げたところで、失敗はつきものだと思っています。ただ、表題に挙げたのが不吉な未来を予想しているのではなく、ピボットさせて長期的に続けていくことが大切であり、『多産多死なくしてWeb3の発展はない』と言えます。多くの失敗はWeb3コミュニティにとっても必要不可欠なものと考えており、それがないと質の良さは伴ってこない。そのため、まずは多くのWeb3プロジェクトをバックアップしながら、コミュニティの発展に寄与していきたいです」(金山氏)

金山氏の見解に対し、Arriba Studioの佐藤氏は「これからはいろんな世代がWeb3プロジェクトを立ち上げるのでは」と予想を立てる。

「若手を中心にトークノミクスの未来について夢を語る人が多いなか、それを上の世代がどんどんアダプテーションしていって、プロジェクトがたくさん生まれてくる時代が来ると思っています。そういった状況が生まれると、いろんな世代が競い合う状態になり、結果的には相乗効果によってWeb3の発展にもつながっていくのではと考えています」(佐藤氏)

Web3躍進の鍵は30〜40代の「ミドル世代」が握っている

そんな佐藤氏は、まさに世代論として「Web3プレイヤーのミドル世代躍進」を掲げる。その心は「SaaS業界やWeb2.0の領域で事業を行う企業が、これからWeb3業界に参入してくると見立てているから」だという。

「私は、先行して2018年くらいからブロックチェーンゲームやWeb3に関わってきましたが、スマホゲーム業界に中華勢の企業が参入して競争が激化しているなか、日本勢は最初ソーシャルブロックチェーンゲームの領域から大きくなってきたと考えています。それが、クリプトの冬の到来で一旦下火になっていましたが、最近また上向きになってきていて、ここから飛躍する会社が増えてくるのではと感じています」(佐藤氏)

ゲーム以外にもNFTやデジタルコンテンツ、サブスクリプションなど、様々なサービスが生まれるであろう中で、これまでWeb3業界に出遅れていた30〜40代のミドル世代のプレイヤーが、もっと参入してくる見立てだという。

さまざまな経験を積んだミドル世代は、新しいシーズを見つけたり既存ビジネスをピボットさせたりと、柔軟にWeb3業界のトレンドに対応できる素養を持っており、こうした世代の台頭がWeb3を盛り上げる原動力になるのかもしれないというのだ。

Emooteの熊谷氏も「私自身、今年の初めにシンガポールへ移住したが、この夏くらいからWeb3に興味を持ったミドル世代の層が家族ごとシンガポールへ移住する姿が多く見られる」と、Web3の活況ぶりを伝える。

「さまざまな先行事例を見つつ、ミドル世代が培ってきたネットワークや知見を生かしてWeb3ビジネスへ参入するような雰囲気を感じていて、明らかに風向きが変わってきている印象をもっています」(熊谷氏)

これに対して佐藤氏は、アーリーアダプダーである若者世代から学ぶことも大切であると説く。

「ミドル世代は若い世代から学ばないと、既存のWeb2.0におけるビジネルモデルを参考にどう事業を伸ばしていくか考えてしまうため、最初に失敗する確率が高くなります。私自身も初めは失敗しているので、今は若い世代がやっていることを吸収するという姿勢に振り切ってWeb3のビジネスを行っていますね」(佐藤氏)

若者とミドル世代でパートナーシップを結んだところが勝機を掴む

Web2.0時代の黎明期よりゲーム事業を手がけて成功に導いていた國光氏は「Web3におけるビジネスの覇権争いについて、ミドル世代が勝つか20代の若者者が勝つかを考える際、私はすごくシンプルに捉えている」とし、持論を述べる。

「モバイルやソーシャルゲームが登場した初期の頃、家庭用ゲームやその公式サイトで実績のあった人たちが、特にモバイルゲームに対しての下調べをせずに参入した結果、全て成功しませんでした。その次に『怪盗ロワイヤル』や『ドラゴンコレクション』が出てきた際は、『ソシャゲってなに?スマホゲームってなに?』というのを徹底的に研究し尽くした地頭のいい新卒が圧倒していったんです。ただ、成長曲線のなかでソーシャルゲームならではの部分が、あるタイミングでコモディティ化してきます。そして今は、IPや世界観、演出が重要になっていて、さらには大規模開発も進んでいるので、ミドル世代の方が強くなっていると言えます」(國光氏)

ブロックチェーンゲームにおいてもミドル世代は、たとえば既存のWeb2.0ゲームのカードの部分をとりあえずNFT化したり、サービスにトークンを付けたりと、初期段階ではブロックチェーンならではの特性を考えていないという。

「ブロックチェーンならではの部分を考えないと、一瞬で淘汰されるでしょう。その一方で、ブロックチェーンのトレンドや本質を抑えている若者がはじめの方は有利になりますが、2年間ほど時間が経てばさまざまなものが出尽くしてコモディティ化するでしょう。そうなったときに、世界観や演出が大事になって来ます。こういった時間軸を意識しながら、若者はミドル世代をうまく活用し、ミドル世代も若者を見習いながら連携していく。双方のパートナーシップを強固にしていったところが、頭一つ抜きん出てくるのではと考えています」(國光氏)

これからは「ほぼオフチェーン」

さらに國光氏は「ほぼオフチェーン」という言葉を掲げ、Web3の未来を見据える。オフチェーンとは、ブロックチェーン上に直接記録されないやりとりのことで、主にブロックチェーンのスケーラビリティ問題を解決するために開発された技術のこと。オフチェーンでトランザクションを実行することで、レイヤー1の負荷を減らし、処理速度の向上やガス代の低減等が可能になるというわけだ。

國光氏によると、現在流行っているブロックチェーンゲームは次々とオフチェーン化が進んでいるという。

「STEPNの場合はほぼオンチェーン部分がありません。Web3における原理主義的な思想とユーザビリティやUI/UXの部分がかなり相反する部分もありますが、オフチェーン化していくことでほとんどのことが解決できると考えています。つまり、私が予想するこれから流行ってくるだろうサービスアプリケーションレイヤーのもので言えば、『透明性』や『信頼性』を担保する部分だけオンチェーンに書き込み、それ以外の部分は全てオフチェーンで設計することです」(國光氏)

例えば、ウォレットもマーケットプレイスもトークンもオフチェーンで、最終的に自分のウォレットに収めるときだけオンチェーンのようなものが出てくるという。STEPNがその最たるものだというが、「ここ2〜3年で『これってWeb3?』と疑問を感じるようなサービスがもっと出てくる」と國光氏は予測する。

金山氏も、フルオンチェーンはまだまだ先だと意見を述べる。

「ブロックチェーンは、人類の前に現れた超便利な道具なわけですが、それをどう進化させ使い方を習熟させていくかで、新たな価値が決まってきます。その中間地点として、ほとんどがオフチェーン化する流れは十分考えられるし、フルオンチェーンのものが流行るのはかなり先になるのではと考えています」(金山氏)

また熊谷氏は、そんな國光氏の意見に同意を示しつつ、オンチェーンの可能性も示唆する。

「既存のブロックチェーンゲームとは全く違う角度から入ったSTEPNが一気にユーザーを獲得したことで、オフチェーン化の有用性が証明されたと思います。ただ長期的に考えれば、もっとオンチェーンにデータが乗ってくると、Web3におけるコンポーザビリティが働いてもっと面白いことができると思っています。現段階ではさまざまな制約があるわけですが、これが3〜5年経過すればだいぶ変わってくるのではないかと思います」(熊谷氏)

Web3ネイティヴで生まれたIPがアカデミー賞を受賞する?

セッションの最後に発表された未来を占う予言は「Web3のIPがアカデミー賞受賞」。これを表明したのは熊谷氏である。

「大きな流れとして今起きているのが、NFTコレクタブルのような、とりあえずNFTを発行してソーシャルトークンで盛り上がるとか、それに付随するパーティーなどで盛り上がるといったことなのですが、それはだいぶ一巡したと思っています。この次は、NFTを何に使うのかという点がトレンドになってきていて、NFTのレンタルやレンディングがもっと気軽で自由に行えるようになることもそうですが、『どうアドバリューできるか』ということも焦点になるでしょう」(熊谷氏)

Web3ネイティヴで生まれたIPから映像作品を作ったり、DAO的なコミュニティから製作委員会を組成して映画を製作したりするなど、様々なやり方を模索できる可能性について、熊谷氏は触れる。

「将来的にはWeb3のテクノロジーやブロックチェーン技術を駆使して生まれるIPが話題になって、アカデミー賞を受賞するような期待感を個人的に抱いています」(熊谷氏)

また國光氏は、「NFTのトレンドは変化が激しいゆえ、大きなチャンスにもなっている」と分析する。

「NFT1.0はビープルのような高額なデジタルアートでしたが、そこから今はNFT2.0へと移行しています。このNFT2.0は『ゲーム × NFT』、『IP × NFT』、『メタバース × NFT』の3つがあり、この第2世代が花咲りの時期だと言えます」(國光氏)

ただ、國光氏によると、第2世代は陰りが見え始めており、ちょうど第3世代へと移行していくような時期に差し掛かっているという。

「『ゲーム × NFT』は、NFTとゲームトークンとガバナンストークンのバランスをどう作るかが鍵になっています。『IP × NFT』は一からIPを作っていき、コミュニティやファンベースで盛り上げていく流れが出てきて、さらに『メタバース × NFT』は、人がいないワールドを作るのではなく、人がたくさん集まっているようなMMORPGを作り、そこをNFT化していく潮流が生まれると予想しています。NFT3.0の到来は、私自身もうすでに見えてきているので、いろんな方々と一緒に作っていければと考えています」(國光氏)

Web2.0の世界ではユーザー数が1億を超えるサービスが多くあるが、Web3の世界ではまだ100万ユーザーのサービスもまちまちの状況だ。どんなターニングポイントがあれば、マイノリティからメジャーなものになっていくのだろうか。

佐藤氏は「難しいのは、周りの100人を囲ってDAOを作っても、一流のクリエイターには勝てない」とし、「その壁を超えるためにどのようなクリエイティブを作るか考える必要がある」と述べてセッションを締めくくった。

「ひとつ言えるのは面白いコンテンツさえ作れば、それを流通プラットフォームに乗せればいいわけで、ゲームも最終的には、Web2.0やWeb3を意識しないでもコンシューマーが楽しめるものが最も大事になってきます。あくまでWeb3はお金を稼げたりクリエイティブの作り方だったりの手段でしかないわけですが、やはりDAOやブロックチェーンなどの技術を用いて、いかに面白くて楽しめるゲームを作れるかを考えていくことが、ひいてはWeb3の発展に貢献していくのではないでしょうか」(佐藤氏)

取材/文:古田島大介
編集/撮影:長岡 武司

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