【金泉俊輔】光もあれば影もある。メディアの変容はここから始まった

【金泉俊輔】光もあれば影もある。メディアの変容はここから始まった

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Windows95、インターネットの普及、スマートフォンの登場により、大きく変容した業界がある。それが「メディア」だ。

かつてメディアといえば、いわゆる「4マス」がその代表だった。しかし、近年はインフルエンサーをはじめ個人の情報発信者が影響力を持つ時代になり、テクノロジーの普及とともに変化を遂げた。

まさに「DX」がもっとも進んだ業界の1つであり、今後DXを企図するプレイヤーにとって最高のケーススタディになるのは間違いないだろう。

そして、その変遷をプレイヤーとして見続けてきたのが、株式会社NewsPicks StudiosでCEOを務める金泉俊輔氏だ。今回から3回にわたって、金泉氏が間近で見て感じてきた「メディアのDX」について語る。

激動のインターネット勃興期に魅了されて

――金泉さんは現在、株式会社ニューズピックスが立ち上げた、次世代映像コンテンツの企画・プロデュースを行うNewsPicks Studiosの代表取締役を務めています。また、これまでもNewsPicksや週刊SPA!の編集長を歴任されてきましたが、そもそもデジタルにかかわるきっかけは何だったのでしょうか?

金泉 私は学生時代から雑誌ライターとして活動し、いくつかペンネームがありました。ある編集者がつけてくれたそのうちの一つが「AI」でした(笑)。当時はまだダイヤルアップ接続で、雑誌の入稿もワープロが主流。手書きだった人もいた時代です。

ただ、Windows95が登場したタイミングで、WIREDやSTUDIO VOICEといった雑誌では、“来たるべきインターネットメディア時代”を予測していました。

私もそういった雑誌を読みながら、インターネットの時代が訪れることは意識していて、周囲に「来たるべき時代に向けた取り組みをはじめます」と話していました。

実際にコミットするようになったのは、2001年に週刊SPA!の編集に就いてからです。編集部のウェブサイトがあり、まだブログという言葉こそありませんでしたが、配属された新人編集者は日報代わりに毎日サイトに日記を書く業務が課せられ、IT・デジタル担当を任されました。

――当時、デジタル担当としてどのような役割を担っていたのでしょうか?

当時は「ハードウェア」が全盛の時代でしたので、ガジェットの紹介が中心でした。取材先もソニーやNEC、富士通、パナソニックといったメーカーを回っていましたね。

ただ、私としてはインターネット企業の方に面白さを感じていました。ドットコムバブルがはじけたタイミングでしたが、週刊SPA!は総合週刊誌でありながら、アスキーやZDNET(現在ITmedia)といった専門メディアとともに、当時スタートアップだったYahoo! JAPAN(以下、ヤフー)や創業期の楽天といったIT企業の取材もしていました。

――ドットコムバブルがはじけたことで、世間ではインターネットの可能性に疑問符がついたタイミングだったはずです。

株価で見れば、その通りです。ただ、現場で取材している感覚では、当時の日本のインターネット産業には大きな可能性を感じていました。

1999年に2ちゃんねるが開設され、私ものちに『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?』という書籍を編集しましたが、ひろゆき(西村博之)さんの連載をはじめ、インターネット掲示板関連の記事も書いていましたね。

インターネット自体は1960年代から長い歴史がありますが、日本では1999年に「2ちゃんねる」と「Yahoo! オークション(以下、ヤフオク!)」が開設され、一気に技術者やギーク以外の一般人に広がっていったと考えています。

2ちゃんねるとヤフオク!で数々の事件が起きたことも、インターネットの取材にのめり込む一因になったと言えます。当時は、ヤフオク!に盗難品が出品されることがあり、そういった事件も取材していました。例えば、あるヤフー社員がストック・オプションで大金を得て脱サラ起業し、港区に一戸建てを購入。しかし、すぐに事業に行き詰まり、高級自転車を次々に盗難して、ヤフオク!で盗品転売を繰り返して生計を立てていた事件などありましたね。

――事件も取材するとなると、さらなる興味がかき立てられそうです。

当時のインターネットが発展していく中で、事件も起こる。その光と影の部分に興味がありました。なかでも、印象深かったのは、1999年に東証マザーズ第1号として上場したリキッド・オーディオ・ジャパンです。

同社は国内の音楽配信の草分けとして知られ、上場記念パーティーには多くの有名人が顔をそろえて脚光を浴びました。ところが、実は暴力団のフロント企業で数多くの事件に関わり、社長経験者も逮捕されたほどです。

「情報の民主化」への期待の高まり

――上場企業にそんな時代があったとは驚きです。

私もリキッド・オーディオ・ジャパンと反社会的勢力の関わりを取材しましたが、当時の新興市場は玉石混交だった時代とも言えます。

1999年は2ちゃんねるとヤフオク!が流行りはじめ、リキッド・オーディオ・ジャパンが上場し、記憶に残る年でしたね。

――当時はパソコンの全盛期だったにも関わらず、ハード関連の取材ではなく、IT企業やインターネットの関係者に興味を持った理由はあったのでしょうか。

一番の理由は“情報の民主化”への期待です。

人物で言えばオン・ザ・エッヂ時代から堀江(貴文)さんたちの取材もしていて、彼らの仕掛けようとしていることのダイナミックさに興味はありました。

当時はインターネットへの接続方法もダイヤルアップからISDN、ADSLへと目まぐるしく変化し、まさに情報が民主化されていく様子を追いかけているようでした。

ライブドアが繰り返して問題になった“株式100分割”も、まさに株式市場の民主化であると、私は思っていました。

個人的にも、メディアビジネスに関わっていたので、インターネットによる変化もより感じていたのかもしれません。

――雑誌をはじめとする紙媒体に関わっていたからこそですね。

2003年には六本木ヒルズが開業したことで、当時入居していたヤフーや楽天、ライブドアと、IT企業の取材も増えましたね。

日本ではFacebookやTwitterが台頭するより以前に、GREEやmixiといったSNSもサービスを開始していましたが、GREE創業者である田中(良和)さんも元々楽天の社員で、楽天在籍時の副業として、GREEを立ち上げています。私もまだ楽天の社員だった田中さんに、六本木ヒルズのカフェで、SNSとして参加者10万人を超えたGREEについての取材をしたことがあります。

日本のインターネットを牽引した「2つのサービス」

――時代の最先端を取材する過程で、金泉さんはデジタルの世界にどっぷり浸かっていったと。

そうですね。おそらく、当時の私は新産業の表と裏を楽しんでいたと思います。新たな技術が生まれると、儲けを目論む山師のような人々が必ず集まってきますから。

私は「日本のインターネットは光通信とダイヤルQ2が牽引した」と考えています。光通信の強烈な営業力とダイヤルQ2という情報料回収代行の技術の2つがベースになり、日本のインターネットは大衆に広がりました。

アダルトコンテンツなどから発展して様々な問題が起こることもありましたが、日本のインターネット産業の成長の裏には、この2つの関係者がいました。光通信とダイヤルQ2の2つが日本のインターネットの勃興期を支えたのは間違いありません。

――最初にインフラが整い、その次にサービスが発展していったと言えそうです。

新しい技術を広めるためには営業する人たちが不可欠で、当時は光通信が担っていたと言えます。実際、光通信は携帯電話でも、販売店である「HIT SHOP」を展開して、一気に広げていきました。

――インターネットの勃興期には山っ気のある人たちが大勢いたと思いますが、取材を通じて印象に残った人物はいましたか。

インターネット企業の創業メンバーは、みんな魅力的で取材して面白い人たちばかりでした。ただ、なかでも孫(正義)さんはやはり頭一つ抜けている印象を持ちました。ブロードバンド化に遅れていた日本で、Yahoo!BBモデムを大量に配って普及させたり、2006年にボーダーフォンを1兆7500億円で買収したときは、多くの人が失敗すると分析していましたが、結果は今のソフトバンク携帯です。

私が、孫さんへ直接取材したのは、3.11の原発問題に関する1度だけです。当時の孫さんは、原子力発電から太陽光発電へのシフトを目指し、「日本を救う」と、個人資産100億円の寄付、今後の役員報酬の全額寄付を表明しました。

原発をリスクと捉え、今後は日本から原発をなくし、再生可能エネルギーを推進しなければならないと。そのために自身の私財を投げ打つものの、もちろん自身の太陽光パネルビジネスの思惑も絡んでいたとは思います。

その取材で「なぜそこまで日本を愛せるんですか?」という質問があったときです。

その質問を聞くや否や、孫さんの目から涙が溢れ出しました。そして、口にしたのは、「私はこの国が大好きだからです」という言葉。

そのあまりの迫力を目の当たりにして、「この人すごいな」と感じさせられました。

第2話に続く

編集:山田 雄一朗
撮影:是枝 右恭

構成:鈴木 友

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