「Play to Earn」ではなく「Play & Earn」。サステナブルなブロックチェーンゲームのあり方とは
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日本の新しい成長産業、いや新しい社会のパラダイムとして注目されているWeb3は、一過性のブームを超えたムーブメントの勢いを感じる。しかし、新しい概念であるがゆえに、どのようにしてビジネスへと昇華させて市場を形成していくのかは、まだまだ手探り状態と言って良いだろう。
そんなWeb3と、そのメイン技術の一つとなるNFT(非代替性トークン)をテーマとする去るグローバルカンファレンス「Non Fungible Tokyo 2022」が2022年7月11日に開催され、様々な領域の有識者を招いたトークセッション等が行われた。

今回はその中から「Play & Earnはサステナブルかどうか?」を取り上げ、セッションの模様をレポートしたい。Play to Earnではなく「Play & Earn」というタイトルに注目だ。
登壇者
- Maxi Kuan(CEO of Metap Inc.)
- アルバート 高木(アルちゃん、Axie Infinity 日本アンバサダー)
- 山田 耕三(Digital Entertainment Asset Pte. Ltd. 創設者兼共同CEO)
- 細金 恒希(LCA GAME GUILD Founder)
- 藤原 哲哉(株式会社ForN 代表取締役/YGG Japan Co-founder)※モデレーター
有識者が考える「Play to Earn」の実態
まず最初に、写真向かって右側から順番に各スピーカーの自己紹介が行われた。
LGG(LCA GAME GUILD)Founderの細金 恒希氏は、2019年から日本で最も古いゲームギルドを運営している人物。独自のデータ分析を行う開発ツールを有しており、そのツールを使って、現在「STEPN」のコンシューマー向けレポートを毎週発行しているという。毎回60万人ほどのユーザーに閲覧されているとのことで、その影響力がよく分かるだろう。
次に、Play to Earnのパイオニアである「PlayMining」を運営するDEA(Digital Entertainment Asset Pte. Ltd.)創設者兼共同CEOの山田 耕三氏は、2018年からGameFiプラットフォーム事業を展開している。Play to Earnのトレーディングカードゲームである「JobTribes」は、若者が「自分でお金を稼ぐ経験」を得ることで、社会的な自立へ向けての一歩を踏み出すきっかけを与えるためのサステナブルなプロジェクトとして注目されている。
アルちゃんの愛称で知られるアルバート 高木氏は、代表的なPlay to Earnゲーム「Axie Infinity」の日本アンバサダーとして活動するYouTuberだ。Axie Infinityにおいては相当の知識を持っており、YouTube上で日々動画投稿を行っている(チャンネルはこちら)。
そして、台湾を拠点とするMetap CEOのMaxi Kuan氏は、5年前からゲーム × ブロックチェーンの組み合わせに可能性を感じ、ブロックチェーン業界に参入。2021年には、メタバース×GameFiのプロジェクト「元素騎士オンライン」を立ち上げ、ユーザーがゲーム内でキャラクターやアイテム、土地などを売買できる「Play and ECO」というメタバース経済圏の構築を目指して日々活動している。
このように、ここに集まったメンバーはみな「Play to Earn」に関連する事業・活動を展開している。Axie Infinityの世界的な盛り上がりから、ゲームをプレイして報酬を得るというビジネスモデルは、日に日に注目度が増している印象だ。
一方で、そのビジネスモデル自体がポンジスキーム(出資者から集めた資金を運用せずに騙し取る詐欺の手法)なのではという意見も、Twitterを中心に各所で飛び交っている。
※この辺りのX to Earnモデルの解説については以下の記事をご参照。
▶︎X2E(X to Earn)とは?生活するだけで稼げる時代がやってくるのか、それともただのブームなのか
こうした状況のなか、各登壇者はどのような心境を抱き、事業に取り組んでいるのだろうか。STEPNに知見を持つ細金氏は「結論から言うと、サステナブルな形にできると考えている」と述べる。
「つい先日、STEPNは独自開発したDEX(分散型取引所)をリリースし、わずか2週間で約7万人のユーザーが使用するようになり、ソラナ(Solana)ブロックチェーン内の流通量ではトップに達しています。こうした動きを私なりに分析すると、外部のエコシステムの金額をSTEPNの経済圏に持ってくる試みをしていると考えています。その金額を試算したところ、だいたい1,000万ユーザーほどにリーチできれば、経済圏の10〜15%ほどを回収できるのではと予想できます。そのようなエコシステムをトークンエコノミクス(配分割合)で作っていけば、サステナブルにすることは可能だと思っています」(細金氏)
サステナブルなゲームにするにはトークンエコノミクスが重要
モデレーターの藤原 哲哉氏(株式会社ForN 代表取締役/YGG Japan Co-founder)は、「入り口でホワイトペーパーの必要性やモデルが決まることから、正直言って市場に出すまではサステナブルにできるかどうか見当がつかない」とコメントする。
そんななか、議論は「そもそも何をもってサステナブルなのか」という方向性に進む。長く続けることだけがサステナブルと呼べるのか、あるいはそうではない別の側面があるのか。
Maxi氏は「サステナブルなゲームを作っていく上ではトークンエコノミクスが重要になってくる」と話す。
「これまではゲーム内でもらったトークンを外に持っていって売ってしまえば、そのゲームを継続しなくなるという構造だったわけですが、元素騎士オンラインではひとつの経済圏を作っていこうと考えています。ガバナンストークンの『GensoKishi Metaverse(MV)』とゲーム内トークンの『ROND』があるので、メタバースの中でも消費が発生します。逆にこれらを使わないと、ゲーム内メタバースの世界では生きていけないので、『ゲームを楽しむために存在するトークン』だと捉えています」(Maxi氏)
元素騎士オンラインのゲーム内で生まれる消費やエコノミクスから、サステナブルを目指していくとMaxi氏は続ける。
「もちろん、最終的にはゼロサムになるわけですが、メタバースの世界が楽しくなければ続かないですし、ゲームが面白くなければユーザーも入ってきません。色んな条件が揃わないとそもそもユーザーは集まらないので、我々はFree-to-playを初めから打ち出していて、メタバースの世界で頑張って稼いだり武器をもらったりして、プレイし続けられるようなゲーム体験を提供しています」(Maxi氏)
PlayMiningを運営する山田氏も、Maxi氏の考えと同じ趣旨を持ちながら日々運営をしているという。
「実際にサービスインして2年間、トークンエコノミーを回していますが、Axie InfinityやSTEPNで成功事例が出るごとに柔軟に取り入れています。最先端のトークンエコノミクスを分析していくなかで、我々エンターテインメント事業者として考えるサステナブルは、ともすると『面白いかどうか』だと考えています。最近だと“Web3エンターテインメント”と打ち出していますが、ユーザーが想像するゲームの面白さ以上の体験を創れると思っているからです。
STEPNはその一端を見せてくれたわけですが、トークンエコノミクスは必要最低限で最先端のものを取り入れつつ、ゲームの面白さを追求していきたい。ゲームを継続するひとつの要因としては面白いか否かが鍵になってきますが、この議論はまだまだ薄いと感じています」(山田氏)
誰かにとって価値のあるゲーム体験は、これからWeb3時代が到来してくるなかで、非常に重要なものになると山田氏は持論を展開する。
「大手企業がまだ、Web3エンターテインメントの面白さに注力する前に、我々は積極的に誰かにとって価値のあるゲーム体験を創っていき、その領域で一歩先を存在になるべく、尽力していきたいと考えています」(山田氏)
ユーザーがゲームに求めるのは「稼げるもの」か「楽しめるもの」か
モデレーターの藤原氏は「ポンジスキームとサステナブルなゲームの両方が存在している方が、ユーザーが選択できる幅が広がる」と個人的な見解を示す。こうしたなか、ユーザーがゲームに求めるのは「稼げること」なのか、あるいは「楽しめること」なのか。どの体験がサステナブルとつながってくるのだろうか。
アルバート高木氏は「エコノミー(経済)がサステナブルになるには資金の流入が必要」とし、次のように説明する。
「5ドル払って6ドルでキャッシュアウトするのは物理的に難しく、非経済的価値を提供することが極めて重要になってきます。ただこれって、皆さんが普段やっているゲームでも出くわす仕組みになっています。例えば5ドル払って得られるものって、楽しさだったり満足感だったりレアなスキンを友人に自慢できたりするものがあると思います。サステナブルなブロックチェーンゲームと従来のゲームで唯一違う点は、5ドル払って本質的な価値を手に入れられるとともに、ゲーム内のキャラクターやアイテムなどのアセットを所有できることです。そして最終的にゲームを辞める場合に、オープンマーケットで売ればお金が戻ってくる可能性もあるわけです」(高木氏)
最近Twitter上で行ったアンケートの結果によると、「Axie Infinityのプレーヤーのうち、50%くらいが稼ぐことを目的に参加してきた」という結果が出たそうだ。
「新たなバーニングメカニズムを導入して、SLP(Axie Infinity内で稼ぐことが可能な報酬トークン)の価格を戻すことも、ゲームの楽しさに加えて大事な要素になってくると考えています。今年ローンチが予定されているAxie Infinity Originや最近発表されたBuilders Programは、その肝になってくる取り組みだと言えますが、特にBuilders Programは画期的なものだと捉えています。Ronin Network(ローニンネットワーク:Axie Infinity内外で暗号通貨を転送するための橋渡しをする役割)上に、Builders Programで承認されたコミュニティの開発した12個の新しいAxieのゲームが実装されます。このプログラムが運用されることで、Axieの新たな利用価値、ゲーム体験を創出することができるようになります」(高木氏)
一方、サステナブルを追求していく上で、ゲームギルドはどのような役割を担うべきなのだろうか。
ゲームギルドを運営している細金氏は「私たちは単に『稼げる』ゲームと『稼げない』ゲームに分けてギルドを運営しているわけではない」と意見を交わす。
「『Play & Collectible』というコンセプトのもと、最近ではSleep to EarnのゲームをLGGでは推しています。デュアルトークンモデルのような多く稼げるようなものではなく、Collectibleをすること自体の楽しさにEarningが付いてくる感覚で、1日寝ているところに500円や1,000円が入ってくるような設計をやっているんです。Web3のゲームはEarningの要素が楽しさのひとつであり、そこに関してはもうちょっと議論をしていきたいなと個人的には思っています。STEPNが暴落したのも、ただの事象と捉えるのではなく、なぜそうなったのか。もっとこうすればいいのではという方向で考え、自分たちでできることからチャレンジしていきたいと思っています」(細金氏)
トレンドが早いWeb3業界ではトークンの設計が肝になる
トークンの設計に関しても、無限発行型と有限発行型のどちらにすればサステナブルになるのか。ネット上ではこのような議論も多くなされている。
トークンの設計で意識したことについて、Maxi氏は「トークンにユーティリティをつけることが大切になってくる」と語る。
「Web3は変化のスピードが早く、ひとつのビジネスモデルがあっという間に通用しなくなります。いかにプロジェクトとトークンエコノミクスを持続させるかを日々意識しているような状況です。我々がトークンの設計で心がけているのは、ユーザーさんがホールドしていて価値が生まれるものであること。そして、ガバナンストークンの役割もあるので、メタバース内の方針決めの投票権を有しているほか、今後DAOコミュニティにも応用できるようにしていく予定です。さらに、他のGameFiやNFTともコラボさせてもらっているので、そこでトークンが使えることで循環が生まれるような形を目指しています」(Maxi氏)
また、IPコラボを多く手がける山田氏は、サステナブルなモデルを受け入れてもらうために意識していることを、このように話す。
「2018年の立ち上げ当初から、ウォレットを作らなくてもメールアドレスだけでプレイできることをコンセプトにしているのですが、Web3が勃興してきているなか、全く知らない人にどう届けるかが鍵になってくると思っています。日本で取り扱いのある暗号資産というPlay to Earn銘柄のメリットを生かし、これからは今まで暗号資産に触れてこなかったユーザー層にも使ってもらえるようにしていきたいです」(山田氏)
そのために、DEAではWeb3エンターテインメントプラットフォーム事業として、今年(2022年)中に5本、来年中には15本のゲームを開発して届ける想定でいるという。
「サステナブルなモデルにしていくには“無限流入”が必要じゃないかという意見がありますが、要はその形が作れればいいわけです。コンテンツにありとあらゆるジャンルやエンターテインメントを入れることで、すべての人たちが理論上に入ってこれるものを作るのが、サステナブルにするためのひとつの解だと思っています」(山田氏)
「Play to Earn」から「Play & Earn」へ。市場の裾野が広がるには?
セッション終盤では「どうすればPlay to Earnの市場は広がるか」というトピックで議論が展開された。ブロックチェーンゲームのプレーヤーはまだ多くはない中で、爆発的に市場が広がっていくには、どのようなトリガーが必要になるのだろうか。
細金氏は「キラーコンテンツが出てくれば一つのきっかけになるが、もともとクリプトに触っていない人からすれば、ボラティリティ(価格の変動率)の変化が激しいゆえ、準備や参加のハードルが高くなっている」と説く。
「LGGがSTEPNの週次レポートを発行しているのは、ある種教育的な側面を含んでいて、読者のリテラシー向上にも寄与できていると思っています。実は毎週、初心者向けにレポートの解説講座も開いていて、興味を持って入ってきてくれた人に対して地道に根を張ってサポートしていけるような取り組みを行っています。今後は大手企業もどんどん参入が予想されますが、Web2.0とWeb3ではマーケティングの仕方が全く異なるので、Web3ならではのマーケティング予算の使い方などを提案していけるようにしていきたいですね」(細金氏)
では、全くクリプトに関する知識がないもののゲームは好きでプレイしているユーザーに対し、Play to EarnなどのWeb3ゲーム業界へスムーズに入っていくために必要はものは何なのか。これについてはアルバート高木氏が「Axie Infinity Originのリリースに加え、Google PlayとApp Storeでもダウンロードできるようになる」と話し、セッションを締めくくった。
「Axie Infinity Originの導入により、Starter Axies(スターターアクシー)という無料でゲームをプレイし始めることのできるFree-to-playを実装する見込みです」(高木氏)
つまり、スターターアクシーでイニシャルの費用を必要とせずにゲームを始め、もっとトークンを稼ぎたいほどに夢中になれたら、マーケットプレイスでAxieを購入する。このような動線設計を考えているという。こうすることで、暗号通貨に精通していない方たちも最初からそれのためにウォレットを開設しなくても、気軽にゲームを楽しめる体験を作ることができるというわけだ。
「ゲームをプレイしていくことで、ウォレットが必要になったら作り、さらにゲームの奥深さを体感していく。このような流れが作れたらと考えています。そして、我々も最近ではPlay to Earnではなく『Play & Earn』にメッセージを変えようとしています。楽しいゲームをプレイするなかで、気づいたらトークンが貯まっていて、それをボーナスとしてキャッシュアウトできるようにしていきたいと考えています」(高木氏)
取材/文:古田島大介
編集:長岡 武司