Web3時代のグローバルコミュニティやコミュニケーションのあり方とは?〜「PRO Pitch: Web3」レポート

Web3時代のグローバルコミュニティやコミュニケーションのあり方とは?〜「PRO Pitch: Web3」レポート

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2022年6月16日、スタートアップ特化型SNSを運営する株式会社PROTOCOLが、オンライン合同企業説明会「PRO Pitch: Web3」を開催した。テーマがWeb3ということで、国内外でWeb3に関連した事業を展開する起業家16名がWeb上に集まり、最新の事業展開状況をプレゼンしていった。

非常に先進的なピッチが多かった中、xDXではその中でも特に気になったプロジェクトについて、前後編に分けて計6社の内容をご紹介する。

後編となる本記事では、Web3時代におけるコミュニティやライフスタイル、そしてコミュニケーションのあり方を考えるプロジェクトについてご紹介していきます。

▶ ​​この記事には前編があります
瞑想 to Earnやストーリーライン参加型NFTゲームまで、Web3ピッチ大会が面白かった件

Web3時代のグローバルコミュニティ構築を牽引する「Scalably」

プレゼンター:山本純矢(Scalably CEO:青山学院大学卒業後、2012年にカバンひとつで海外へ飛び出て海外スタートアップビジネスキャリアに身を置く。2015年にEthereumなどブロックチェーン2.0系起業家との交流で感化され、Web3.0の業界で起業。350名以上のブロックチェーン専門家を擁する研究開発会社やインキュベーションセンターの経営に従事。2021年Web3.0が確立した世界を見据えて社会課題を解決するコミュニティテック企業「Scalably」を創業)

プロジェクトURL:https://scalably.com/

「Community always matters!! コミュニティこそが、あらゆる問題解決や機会創出の鍵となる!」

ピッチの冒頭でこのように強調する山本氏。2015年より海外でWeb3関連事業を展開し、顧客の様々な悩みや問題を解決してきた同氏が現時点で行き着いた結論が、この文言に集約されているという。

事業の価値には様々な尺度があるが、その中でもグローバル規模でのエコシステムの大きさやその領域の関係人口の多さは重要なポイントの一つとなる。だが、グローバルコミュニティを継続的に運用するための方法論は、マーケティング戦略のようなフレームワークとして存在しているわけではないので、非常に難度が高い。

一方で消費者も変わってきており、クリプト界隈を考えてみても、非英語話者国での潜在的な市場が拡大している。ただし、50%以上のプロジェクトが英語のみに対応している状況であり、コスト面に鑑みても英語以外の多言語に対応するのは簡単ではない。

このようなグローバルなコミュニティ運営の課題を解決するためのソリューションとしてScalablyが提供しているのが、オープンコミュニティ管理PaaSの「Ecomedia」である。こちらは「WordPressでWebサイトを作るかのように、Web3型コミュニティ管理インフラを簡単に作成できる」ことが大きな特徴とのことで、多言語情報流通プロトコルやマーケットプレイスモジュールを搭載し、Web3型の自律分散型コミュニティをはじめ、様々なコミュニティ構築を支援するという。同プロジェクトはカルダノ(Cardano)ブロックチェーンのコミュニティファンドから助成金を受けており、2022年6月〜9月までオープンβ版を展開する予定とのことだ。

xDX編集長のひとこと

ピッチの中で山本氏が強調していた「Web3コミュニティの構築は惑星系を構築するのに似ています」というフレーズが非常に印象的でした。実は僕自身、過去に何枚かカオスマップを作成しているのですが(たとえばこちら)、まさにその領域の舞台をどのようにデザインするかが鍵になると、そのときに感じた次第です。Web3プロジェクトに国境の概念は存在しないでしょうから、グローバルなプロジェクト展開に不安を感じている起業家や社内プロジェクト担当者は要チェックのプロダクトだと感じます。

自分の人生をアート化して販売する文化を創る「ab3」

プレゼンター:保科創(ab3 CEO:米国系企業のネットワークシステムの検証・請負開 発会社を設立し自身で6年運営後、外資系企業の要 職を中心に、企業の設立~立ち上げ~経営に2018年 まで従事。その後、主に米国企業を中心にAIスター トアップ企業の日本法人の支援業務を複数遂行する 傍ら、消費者向けのWeb3プロジェクトを立ち上 げ、2022年1月にab3株式会社を設立)

プロジェクトURL:https://corp.ab3.vision/corp-ab3/BeLife-2f0ad6c0a580433fa997825f71632dcd

「偽りの無い世界を目指す「社会とデータの仕組み」をテクノロジーで整える」ことをミッションとするsb3では、「Our life is our art.(自分たちの人生は自分たちにとってのアートだ)」というジョン・レノンの言葉よろしく、自分の人生をアート化して販売できるプラットフォーム「Belife」を展開している。

Belifeでは、TwitterやFacebookのような要領で画像などのライフログ・行動データを投稿・記録していくことで、その記録データを材料にしたNFTアートが生成される。生成されたNFTアートは、そのままボタンクリック操作ひとつでOpenSeaのようなNFTマーケットプレイスにて登録・公開されるという流れになるという。

NFTアートの内容としては、冒頭に掲載した画像のように、Belifeで記録された行動データに対して独自アルゴリズムを適用することで、たとえばモザイクアートのような形を想定しているとのことだ。

日常生活や体験したことを新しい手法で共有することで、世の中は豊かになる。また、嘘偽りのないデータを示すことによるインセンティブの流れを整えることで、正しい行動やデータを記録・共有する人が認められる社会の仕組みを整える。そんな想いでab3を運営していると保科氏は強調する。

Web2からWeb3へとパラダイムシフトが進む過程において、個人にまつわる情報の個人管理トレンドはますます増えていくだろうし、それに伴い個人データの非改ざん性へのニーズも高まっていくことが想定される。だからこそ、個人の「信頼できる」行動データを積極的に公開していくスキームは重要なのであり、そのためのプラットフォームとしてBelifeを成長させていくということだ。

xDX編集長のひとこと

「人生そのものをアートに変換する」というコンセプトが素敵だと感じました。CEOの保科氏含めチームのバックグラウンドが行動データ解析に強みがあるとのことで、普及が進むことで人々の表現の選択肢の拡張が期待できると感じます。一方で、正しい行動データを入力するという行為をいかに継続的にしてもらうか、というデザイン設計の部分をどうするのかについて、今後の発表等を要チェックだと感じます。

Web3ライクなネットコミュニケーションのプロトコル構築を目指す「Highphen」

プレゼンター:佐々木亜留(Highphen CEO:滋賀大学経済学部4年、ニューヨークに留学中にクリプト系VCでのインターンシップを経験しWeb3の世界にALL-INすることを決める。帰国後、シンガポールにWeb3領域での事業を展開をするHighphen Pte.Ltd.を創業し、CEOに就任。現在はWeb3におけるコミュニケーションインフラを作るため、Decentralized Message Transfer Protocol(DMTP)を開発中)

プロジェクトURL:公式発表なし(2022年7月10日時点)

クリプト系VCでのインターンシップ経験をもつ大学4年生の佐々木氏がテーマとして掲げるのが、Web空間におけるコミュニケーション改革である。

昨今では様々なWeb3関連プロジェクトが勃興しているが、その連絡・通知手段はWeb2、いやWeb1ベースのものになっているのが現状だ。せっかくWeb3になってクリックひとつでウォレット接続してアカウント登録できるようになったのに、連絡をとるためにメールアドレスやパスワードを入力しなければいけないので、美しくない上に、なによりも煩雑である。

そのような背景から、佐々木氏がCEOを務めるHighphen(読み方:ハイフン)では、ウォレットアドレスでメッセージを送受信できる「Decentralized Message Transfer Protocol(DMTP)」を展開している。こちらはメールと同様に、ユーザーは無料でメッセージの送受信ができ、またトークンやNFTの送受信がチャットルームで可能になるという。

特徴的な点は、DMTPは無償利用が可能であるにもかかわらず、「Communicate to Earn」のスキームを採用しているということだ。アプリをインストールして友達を招待し、メッセージの送受信をすると独自トークンを付与するという仕組みになっているという。

※X to Earnの詳細についてはこちらの記事をご参照
▶︎X2E(X to Earn)とは?生活するだけで稼げる時代がやってくるのか、それともただのブームなのか

では、運営資金はどうするのかというと、基本的にはNFTの販売を想定しているという。DMTPでは相互フォローがメッセージのやり取りの前提になるのだが、特別な権限として、相互フォローをしていないユーザーについて有料でメッセージを遅れる権限が設計されている。「この人にメッセージを送りたい」と思ったら、相互フォローがなくてもその権利となるNFTを購入することで、該当アカウントとコミュニケーションする権利を得ることができるのだ。またこの他にも、全ユーザーに表示されてフォローされる機会を増やす権限なども、NFT販売のスコープに入っているという。NFT販売で得た資金は、一度トレジャリーに集まった後に、70%がDMTPトークンのステーキングホルダーに分配される仕組みが想定されている

なお、DMTPは「プロトコル」という位置付けのソリューションになるので、SDKやAPIを提供することでDAppsサイドからのエコシステムもアップドラフトサイクルとして想定しているとのこと。ウォレットアドレスを連携させるプロトコルのため、ユーザーをスカウティングする人材ツールや決済サービスなど、多様な展開が期待できるだろう。

xDX編集長のひとこと

いまだに大半のネット体験がメールアドレスとパスワードの世界にとどまっているのは全くもってその通りで、これにとらわれている限り、知識認証の限界に起因するセキュリティ事故は増え続けるでしょう。コミュニケーション to Earnモデルも、Sleep to Earnのように「日常生活を送る上で不可欠な行為」でトークンを得るスキームとなるので、人々のライフスタイルにフィットさえすれば、爆発的に広がる可能性があるものだとも感じました。

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前後編合わせて合計6つのスタートアッププロジェクトをご紹介しましたが、良くも悪くも、Web3はまだまだこれからの領域であることがお分かりになったと思います。とはいえ、既存社会で所与となっているものを前提から覆すような取り組みも多く、社会全体のトランスフォーメーションの狼煙は上がったと感じています。今後半年間はビジネス界隈のWeb3熱が加熱してくると思いますが、大事なのはその後でしょうから、長い目で各プロジェクトの進捗をチェックしていきたいと思います。

Web3関連の解説記事

▶︎【超簡単説明】Web3がよく分からないというあなたへ

▶︎Web3(Web3.0)とは?自律分散型社会のあり方から、ブロックチェーン・メタバース・NFTの関係まで詳細解説

文:長岡 武司

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