次世代の経営者が実践するニュービジネスの立ち上げ方 〜SHARE SUMMIT 2022 セッションレポート〜

次世代の経営者が実践するニュービジネスの立ち上げ方 〜SHARE SUMMIT 2022 セッションレポート〜

目次

資本主義経済下において、企業は激しい市場競争を続け、優位性を保つためにデジタル化やグローバル化などを積極的に進めてきた。しかし、ここにきて「環境」や「格差」といった問題が浮上してきた。

この問題を解決するにはどうすればいいのか。そして「次世代のビジネス」はどうあるべきなのか。

2022年11月1日に開催された「SHARE SUMMIT 2022」では、「次世代経営者と考えるポスト資本主義時代のイノベーションの起こし方 〜次世代経営者がシェアする共感を掴む新戦略〜」をテーマにしたトークセッションが行われた。

新しい発想で事業を行う若きZ世代、ミレニアル世代の経営者らが共感を生む事業の特徴や起業のモチベーションなどについて活発に議論した。

  • 露原 直人(Forbes JAPAN Web編集部 エディター)

  • 坪井 俊輔(サグリ株式会社 代表取締役CEO)

  • 成井 五久実(株式会社インターホールディングス 代表取締役社長)

  • 富治林 希宇(Rsmile株式会社 代表取締役)

  • 南 章行(株式会社ココナラ 代表取締役会長)※モデレーター

各登壇者の自己紹介と取り組む事業について

まずは各登壇者の自己紹介が行われた。

富治林氏は、不動産管理業と地域住民のスキルをシェアするサービス「COSOJI(こそーじ)」を運営している。

地域の住宅やアパート、マンション、オフィスなどの電気交換、清掃業務を、スキルを持つ地域住民とマッチングさせるシェアリングプラットフォームだ。

COSOJIを活用する現場作業者は、月間案件数の増加や生産性の大幅な向上に寄与しており、不動産管理者においても、外注費用のコスト削減や紙の請求書の作成・管理を撤廃するなどのメリットにつながっている。

株式会社インターホールディングスの代表を務める成井氏は、新卒のDeNAでは営業、2社目のトレンダーズではPR業務に従事。1度目に起業した会社の事業売却などを経て、2022年にインターホールディングスを創業した。

99.5%の真空率を誇る特許技術を買い取ってビジネス化し、真空特許容器「INTER」を開発から製造、販売までを手がけている。

この真空特許容器をサプライチェーン全体に組み込み、フードロスと温室効果ガス(GHG)削減を同時に実現する事業の仕組みを作り上げたのだ。

この事業単体で10年後には、地球全体で排出される温室効果ガス年間量の1%に当たる5.75億tの削減を目指しているという。

またサグリの坪井氏は、衛星データ×AI×区画技術(グリッド)の3つの技術を組み合わせたサービスを提供している。

耕作放棄地がひと目でわかるアプリ「アクタバ」は、約70の自治体で導入されており、さらには生育・土壌を見える化する「サグリ」を用いることで、農業従事者の農地管理を効率化することができる。

これまでアナログだった農地管理や土壌分析を、衛星データとAIでデジタル化し、将来的には脱炭素社会の実現に向けて貢献していくという。

Forbes JAPANのWeb編集部にて、スタートアップ領域に特化した取材を行う露原氏は、今をときめくスタートアップ企業のトップインタビューやニュース記事などを担当。次世代ビジネスの可能性などを発信し続けている。

登壇者が捉えた課題と解決に向けたアプローチを紐解く

登壇者の自己紹介が終わったところで、ここから本題のセッションへと入っていく。

これまでの資本主義が前提としていたマーケットメカニズムは、お金を媒介とした経済やインセンティブの設計であった。

それは人口・経済規模の成長があった上で資本主義が作られてきたが、近年そのほころびが生じ始めていることもあって、「ポスト資本主義」が叫ばれている。

こうした状況下で、経営者はどのようにビジネスを組み立て、どんな社会課題を解決していくのか。

その仕組みやモチベーションについて議論が深められていく。

富治林氏は「COSOJIは、モデレーターの南さんがやられているココナラの不動産管理版と例えられる」とし、事業について説明する。

「事業の大きな特徴として、今までアパートやマンションの清掃に行くのに2時間かけていたのを、スキルを持った地域住民が代わりに担当することで、10分で現場に行くことができるなど、時間短縮につながります。マッチングに近い形態ではありますが、裏側ではスキルチェックをしたり審査をしたりと、精度を高められるように努めています」

カーペットの張り替えや電気交換などが必要な物件を不動産管理会社が把握し、現場作業者が実際に足を運ぶ流れになっているわけだ。

COSOJIを活用することで、不動産管理会社は長い移動距離をかけて現場に出向く業者に依頼せずとも、現場近くの地域住民に発注することにより、実働ベースのコストのみで依頼できる。

「この業界はまだまだ紙が主流になっていゆえ、COSOJIを使えば全てネットで完結できるのもメリットだと思っています」

例えば、ビルAの電気交換と、隣に位置するビルBの壁塗装は、本来であれば同じ作業者で対応できるが、実際には全く違う人に違う日に発注しているケースもあるという。

一方、COSOJIを通すことで同じ日に同じ作業者へ依頼することができ、また他府県からではなく現場と同じ地域から作業者を選定可能なのでコストも下げられる。

「COSOJIのビジネスの根幹にあるのは、本来割くべきところに時間を割いた方がいいということです。ビル管理者は建物のグレードアップやバリューアップを図っていくべきですが、そこにお金を割けずに現場作業者の移動コストに費やしてしまっている管理者も少なくありません。加えて、業界全体で不動産管理の需要は高まっているものの、管理する人の数が減っているような状況ですので、COSOJIがその課題を解決できればと考えています」

次いで、モデレーターの南氏が「99.5%の真空特許技術と聞くと、単純にすごそうに思えるが、この技術を用いることでどのような課題に挑んでいるのか」と、成井氏へ質問を投げかけた。

これに対し、成井氏は「地球全体で排出している二酸化炭素の大部分を占めているのが、サプライチェーンの流通全体にあり、脱炭素ベンチャーとしてスコープ3(自社の活動に関連する他社の温室効果ガス排出量のこと)の削減に取り組んでいかなければならない」と話す。

「牛乳で言えば、搾汁をした牛乳をトラックで小売店に運び、消費者が牛乳を買って飲んで紙パックを消費する。ここまでがスコープ3の範囲になっています。ではどのようにして課題解決に取り組んでいるかというと、今までリユーサブルでなかった一斗缶を、弊社の真空の大容量パックに牛乳を入れ、これをそのまま小売店へ直送し、真空の量り売り機にセットします。消費者はマイボトルなどで牛乳を買うことができ、家庭でも鮮度の高い牛乳を長く美味しく楽しめるようになります。このような一連の流れで一切ゴミが出ない新しい消費社会の実現を目指しています」

また、最近では消費者だけではなく、レストランで提供するワインにも真空容器が導入されているとのこと。

「ビンは重いもので、物流による環境負荷もすごくかかっていますが、最初からワインを真空パックに入れてしまって、それを業務用にレストランなどに卸せば、ビンやペットボトルを捨てないで済む。こうすることでフードロスや環境に対する問題解決にもつながっていきます」

一方、成井氏が営業をしていくなかで課題を感じることもあるそうだ。

「日本全体の環境問題に対する意識の薄さみたいなのを、いろんな人とお会いするなかで感じています。例えば、『今の醤油の容器を真空パックに切り替えましょう』と提案します。しかし従来であれば3ヶ月で賞味期限が切れるのに、賞味期限が1年になってしまうと、買い控えを懸念したり利益の担保に不安を覚えたりする企業が多い。まずは全国の小売店を訪れて、脱炭素ベンチャーとして目指す世界観を伝えながら、地道に活動を行っていきたいですね」

衛星データで農業課題の解決に取り組む坪井氏は、「今まで国が教育や研究で使って衛星データを、5〜6年前から商用でも利用する流れが生まれてきたことで、我々も衛星データを生かしたソリューションを開発できるようになった」と述べる。

「最初に出したアクタバは、農地を管理する行政向けのソリューションになっています。また、大規模な農地を運営する農業従事者向けのサグリは、経験と勘で培ってきた農薬散布量を最適化し、リスク回避のために農薬を多めに撒かなくても済むようなプロダクトとなっています。このような農薬・肥料の適正化を図ることで、農地の維持コスト削減と生産性の向上が可能になるんです」

例えば毎年行政が行う農地の実地調査データは台帳に残っているため、過去の衛星データをAI技術で分析し、それと照らし合わせることでモデリングすることができるという。

社会課題を解決するビジネスに取り組むモチベーションの源泉

さまざまな起業家の取り組みやビジネスの視点を聞いて、Forbes JAPANの露原氏は「最近、社会課題をどう解決するかというスタートアップに取材する機会が増えている」とコメントする。

「Forbes JAPANの本誌でも『インパクト100』という特集を組み、社会課題と財務リターンを両立させるスタートアップを100社取り上げました。一方、社会課題を考えるためには、ある程度の金銭的・心理的な余裕がないと向き合えない。そういうモチベーションが、登壇されている起業家の方はどこから生まれているのか、すごく気になっています」

富治林氏の場合、不動産ビジネスの川上から川下まで経験してきたこともあり、いわばその延長線上で今の事業を始めたという。

だが、やりたいことをやるためには「ある程度の資本金が必要になってくる」と考え、仕事をしながら不動産投資も行い、生活の基盤を整えてから起業した経緯を持つ。

「社会課題の解決や独立志向から、今の事業を立ち上げたのではなく、どちらかというと目の前の顕在化された課題に対し、『なかなか解決されづらいから自分たちで解決することがミッション』だと考えたのが大きいと思っています。ただ、生活基盤がしっかりしていないと、いざ事業を始めたときに判断がぶれてしまいがちなので、30歳までに収入面を確保することを意識していました」

成井氏も20代の頃は「まずは人間としていい暮らしがしたい」という思いから、自分の得意だったキュレーションメディア事業で起業したそうだ。

幸いにも、1年で大企業から買収されるという経験を積んだことで、シンプルな資本主義の構造に触れることができた。

その後、デジタル広告の運用やオウンドメディア支援といったBtoB事業の会社を4年間やっていくうちに、「社会が変わっていくなかで、2つの壁にぶち当たった」と成井氏は語る。

「まずひとつは、ビジョンへの共感を創ることが難しいこと。やはりBtoBのマーケティングは手触り感が掴みにくいというか、やっていることへの共感に落ちにくい側面を感じていました。もうひとつは採用難です。スタートアップで優秀な人材を確保するのは大変だと言われますが、今後優秀な人材を採用していくには社会課題を解決するなど共感性の集めやすいビジョンを持ち、事業に邁進している会社に人も資本も集まるトレンドを抑える必要性があると気づいたんです」

20代の頃から「社会にいいことをしたい」という漠然とした気持ちを持っていたそうで、今回の脱炭素ベンチャーは「社会課題の解決と資本主義の融合」がなされた初めての大きな潮流として捉えているという。

他方、坪井氏は「ビジネスをやって稼ごうという思い」を全く持たずして事業を始めている。

「1社目に立ち上げた会社は、大学生だったこともあり、やりがいを持って楽しく取り組んでいました。しかし、儲かるビジネスではなかったために資金が段々と目減りしてしまい、資金繰りが厳しくなった時期も経験しました。そのときに初めてお金を稼ぐことの重要性に気づいたんです。そこから2年くらい、事業が安定するまで頑張って、今の事業を始めています」

途上国で教育を行っていた際、現地の農家の現場が日本とあまりにかけ離れており、自分が教育で携わった子供たちが進学できず、農家にならざるを得ない状況を目の当たりにしたという。

そこから「農業を変えなくてはならない」という思いが芽生え、現在のサグリを創業するきっかけになった。

「今振り返って思うのが、利益を出せずにいると経営の意思決定が遅れたり、正しい判断ができなかったりするということ。ある程度、利益を上げられるようになった方が心にも余裕が生まれるし、健全な判断にもつながる。ビジネスで儲かるか否かで戦っている経営者には負けるかもしれませんが、『農業を変えたい』という強いビジョンを持っているゆえ、事業を辞めない自信は他よりもあると思っています」

ポスト資本主義は既存の資本主義へのアンチテーゼではない

露原氏は「お金から始まった人もいれば、社会課題から始まった人もいて、非常に興味深く話を聞いていた。取材を通して記事を書き、さまざまな反響をもらうことが自分のやりがいになっているので、これからもいい記事を生み出していきたい」と感想を述べた。

最後に南氏がセッションのラップアップを行い、セッションを締めくくった。

「かつての資本主義では、資産も無限にあり、かつ人口も増え続けるなかでの持続的成長が当たり前の概念として存在していたのが、現代においてはその“神話”が崩れ始めていると感じる人も多いと思います。そのなかでひとつ言えるのは、ポスト資本主義が既存の資本主義に対するアンチテーゼではないこと。今回の各登壇者の話を聞いていると、資本主義の仕組みに乗っかりながらも、社会にいいことを同時にやっていることが伺い知れました。

つまり、『ビジネスインパクト』と『ソーシャルインパクト』を同時に出すことが肝になってくるわけで、目の前の課題を一つひとつ乗り越えていけば、ひとつの成果としてあらわれるのではないでしょうか」

編集後記

新時代の幕はもう上がっている――。
「SHARE SUMMIT 2022」のセッションを聴いて、そう思わずにはいられなかった。

未曾有の変化に直面して、時にどこへ向かえばいいかわからなくなる時もあるだろう。しかし暗闇の中で灯りを照らし、前に進み続けるイノベーターたちが確かに存在する。

xDXもイノベーターたちと共に歩み続けるメディアでありたい。

写真提供:一般社団法人シェアリングエコノミー協会
取材/文:古田島大介
編集:山田 雄一朗

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