【安宅和人 × 斎藤幸平】人類のあり方のトランスフォーメーションによせて

【安宅和人 × 斎藤幸平】人類のあり方のトランスフォーメーションによせて

目次

「サステナビリティ」「経済格差の拡大」、これらのワードは「DX」とともにメディアで見ない日はない。

人類が現在直面する最大のイシューであり、その解決に向けて世界中の有識者たちが知恵を絞り活動を続けている。

2021年10月5日に開催された「SHARE SUMMIT 2021」のセッション「シェアという思想 〜本質的な豊かさを実現する経済社会の行方〜」では、ベストセラーの著者であり、日本社会におけるプレゼンスを高め続けている2名の有識者が登壇した。

一人は、書籍『シン・ニホン』の著者であり、DXにも造詣が深い慶應義塾大学 環境情報学部教授であり、ヤフー株式会社のCSO(チーフストラテジーオフィサー)でもある安宅和人氏。そしてもう一人は、書籍『人新世の資本論』の著者であり、経済思想家・大阪市立大学准教授でもある斎藤幸平氏だ。

本セッションではモデレーターの一般社団法人シェアリングエコノミー協会 常任理事兼事務局長・石山アンジュ氏とともに、安宅氏と斎藤氏が、人類が直面する課題とサステナブルな社会を実現するために必要なことを徹底議論した。今回はその内容のダイジェストをお伝えする。

地球環境の悪化で起こること

冒頭、安宅氏が語ったのは"環境問題"に対する危機感だった。まず、昨年から続くCOVID-19について言及する。

「COVID-19のような感染症を一過性のものと捉えない方がいいでしょう。2000年代に入ってから見ていくと、SARSやMARSなどが起きています。またサハラ以南では、いまだにエイズが主な死因の1つとなっています」(安宅氏)

COVID-19の影響は現在も続く。しかし、2000年代以降の感染症の変遷を踏まえると、今後新たな感染症が私たちを襲ってきてもおかしくないのだ。

そして、この感染症発生の原因にもなりうるのが「地球環境の悪化」だ。特に地球温暖化の影響について、安宅氏も深刻な懸念を示す。

「地球温暖化対策はもう待ったなしの状況で、温暖化の影響で北極の氷が全て解けるという予測もあるほどです。また温暖化によって北極圏の氷が溶けることにより、凍土に閉じ込められていた細菌が地表に現れ、感染症の発生源になる可能性も指摘されています。さらに、地球温暖化の影響で海面温度の上昇も発生しつつあります。台風などの災害が甚大化しているのは、これが一因にあるとも言われ、将来的には風速70メートルの台風が発生してもおかしくないという予測も出ています」(安宅氏)

2020年9月に発生した超大型台風10号は、(風速ではなく)最大瞬間風速70メートルを記録したと言われている。また2019年に千葉県に甚大な被害をもたらした台風15号ですら、最大瞬間風速は57.5メートルだったことを踏まえると、安宅氏のコメントは現実的に起こりうるリスクであるのは明らかだ。

地球環境に経済格差が影響を与える理由

これに関連して、斎藤氏は地球環境に「経済格差」が大きな影響を与えていると指摘している。

「地球全体のCO2の排出量のうち、いわゆる富裕国が占める割合が非常に大きいです。この事実から目を逸らしてはいけません」(斎藤氏)

JCCCAの資料によれば、世界で最もCO2を排出しているのは中国で、全世界のおよそ3割を占める。2番目の排出国はアメリカで約15%。その後インド、ロシア、日本と続く。

しかし、これは国としての総量であり、1人あたりに換算すると景色が変わってくる。

1人あたりのCO2排出量のトップはアメリカの15.1t/人。続いて韓国、ロシア、日本、ドイツの順番となり、中国は6.8t/人でアメリカの半分以下となる。また経済発展が著しいと言われるインドですら1.7t/人で、アフリカ諸国に至っては0.98t/人と試算されている。

このデータから読み解くと、いわゆる先進国の国民がいかに多くのCO2を排出しているかが浮き彫りになる。

国が豊かになればなるほど、物質的に恵まれるようになる。しかし、それは同時にゴミやCO2の排出にもつながってしまう。地球環境が悪化の一途をたどっている今、このあり方を問い直す必要があるだろう。

斎藤氏が「脱成長」を掲げるのは、このような理由があると考えられる。

しかし、脱成長の実現はまさに「茨の道」だ。その1つに「利子」の存在が挙げられる。安宅氏は「経済成長が止まってシュリンクし始めると、利率の負担が大きくなり、ビジネスなどが立ち行かなくなる可能性がある」と指摘する。

資本主義の一面には、資本の力をテコに生産設備などを整え、財の生産量やその効率性を高めることがある。これにより、財の供給量を満たし、多くの人々に財を届けることが可能となる。

しかし、その資本は無料で手に入れられるわけではない。それ相応の利子を支払い、それが資本調達コストとなる。

企業経営者がコストを払ってまで資本を調達するのは、それを上回る収益を将来得られると期待しているからだ。経済や市場が成長を続け、そこから収益を得られるのが、大前提となる。

しかし、脱成長を実現するということは、経済成長率がゼロ、ひいてはマイナスになる可能性がある。そうすると、経済成長などを前提に資本を調達していた企業経営者は想定していた収益を得られなくなり、倒産に陥るリスクもある。脱成長に舵を切るには、この問題を解く必要がある。

また脱成長によって、財を生み出す代替手段を模索する必要もあるだろう。なぜなら、我々の生活に必要な財やサービスが提供されているのは、従来型の資本主義が機能している側面もあるからだ。もし従来型の資本主義を捨て去ってしまえば、我々の生活が成り立たなくなってしまう可能性もある。

サステナブルな社会をどう構築するか

そこで、斎藤氏が提唱するのは「コモン(共有財)」の概念だ。コモンとは、人々の生活に欠かせないインフラなどを、それを利用する人たちの共有財産として活用する考え方であり、ヨーロッパではコモンの概念に則った政策も施行されつつあるという。

「例えば、オーストリアでは2021年11月から1日3ユーロで公共交通機関が乗り放題になります(関連ニュースはこちら)。これは、自家用車を所有するのではなく、既存の公共交通機関を利用することで、環境負荷の低減や移動難民の減少を図ろうとする取り組みです。これはコモンの概念に則ったサービスと言えるでしょう」(斎藤氏)

「所有から利用へ」。近年、シェアサービスの展開でよく聞くキャッチフレーズだ。しかし、シェアの根底には「コモン」の概念が欠かせないのではないか、というのが斎藤氏の意見である。そして、社会に参画するあらゆるプレイヤーがコモンの発想をベースに変革を起こせば、経済格差の問題など解決に向かうかもしれないというわけだ。

一方、安宅氏は従来型の資本主義から脱却し、コモンに根ざした新たな社会づくりなどの必要性に理解を示しつつ、全く別の観点から提言を行う。

「今、サステナブルな社会を築こうと世界が動いていますが、果たしてそれが間に合うかと言われると、かなり厳しい状況にあります。それを踏まえると、我々は最悪の状況を見据えて『サバイバル』の方法も模索しておく必要があるでしょう」(安宅氏)

かつて経営コンサルタントとしても活躍し、現在ヤフーのCSOも務める安宅氏は、現実をシビアに見つめている。

社会課題はDXのヒントになる

ここまで、本セッションにおける安宅氏と斎藤氏の発言のダイジェストをお届けした。「環境問題」と「経済格差」、セッション全体を聴講して、両者が持っている問題意識はほぼ一致しているように見えた。そして、この問題へのチャレンジこそが、人類の将来を左右すると言えるだろう。まさに、最上級のX(トランスフォーメーション)課題だ。そして、この人類全体のあり方への変革チャレンジに対して、テクノロジーがどこまで貢献できるのかも、同時に問われていると感じる。

セッションの中で安宅氏は、Facebookをはじめとする現在のデジタルプラットフォームは「一種の封建制における荘園」だと話しており、様々な課題を前提としつつも、プラットフォームとしての役割を全うするためのメンテナンスは、荘園システムだからこそ成り立っているのではないかとの仮説を述べていた。一方で斎藤氏は、現在のデジタルプラットフォームは民主的ではないとし、もっと別の形を模索するべきだとも話す。

正解というものが存在しない問いに対して、それでも現状を少しでも良くするための喧々諤々の議論と、待ったなしのアクションが必要なのだ。この姿勢こそ、トランスフォーメーションを迫られているあらゆるステークホルダーは学び、当事者意識を持つべきなのではないかと、セッション聴講後に感じた次第だ。

DXプロジェクトの担い手はぜひ、悩んだときは、空を見る感覚で本セッションのことを思い出してほしい。

編集:山田雄一朗

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