今のDX界隈は「山頂なき山登り」。2030年を見据えたデジタル社会で大切なこととは

今のDX界隈は「山頂なき山登り」。2030年を見据えたデジタル社会で大切なこととは

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今年9月にデジタル庁が創設され、その一挙手一投足に注目が集まっている。

持続可能な地域社会を実現するために、自治体業務のDX化が重要味を帯びているなか、個人(国民)・企業・自治体・政府それぞれのセクターの役割はどうあるべきなのか。そして、セクターを超えてどう連携するべきかを考えていく必要があるだろう。

2021年10月5日に開催された「SHARE SUMMIT 2021 ~Sustainable Action~」内で行われた「持続可能な地域社会システムとデジタルの役割〜DX普及元年から2030年を見据えたデジタル社会を考える」をテーマにしたセッションでは、2021年の現在地から2030年を見据えた時にデジタルがどのようにして社会変容のトリガーになりうるのかについて、有識者らによる議論が交わされた。

本セッションのスピーカーには、デジタル庁統括官 兼 国民向けサービスグループ グループ長を務める村上 敬亮氏や三重県 最高デジタル責任者 兼 デジタル社会推進局長の田中淳一氏、株式会社ジャパンタイムズ 代表取締役会長兼社長の末松 弥奈子氏らが招聘され、モデレーターは株式会社アドレス 代表取締役社長の佐別当 隆志氏が行った。

官庁、自治体、メディアに属する各プレーヤーの取り組み

まず、各スピーカーが現在取り組んでいることについて紹介した。

デジタル庁の村上氏は、e-Japan戦略やクールジャパン戦略の立ち上げ、地方創生業務など、長きにわたって国の産業変革や経済発展に尽力してきた人物である。

これまでの活動を通して改めて思うのは、「地方創生について、自治体のあり方は難しい」ことだと同氏は述べる。

「地方創生と言われて久しいが、殊の外、地域社会は住民への公平分配が得意である一方で、『地域活性化を図るべく、ここにかける』という決断が苦手です。ビジネスはもちろんのこと、地域経済においても選択と集中が大事であり、どうやって地域発展の未来に投資できる地域社会を作れるかが、地方創生の鍵になると考えています。今日はそこを踏まえて議論できればと思います」(村上氏)

次いで、2021年4月から三重県のCDO(最高デジタル責任者)に着任した田中氏は、同県で推進しているDXについて次のように説明した。

「一般的なDXといえば、デジタルを活用することで時間短縮や付加価値の向上を実現することだと思います。それが三重県の場合、三重県デジタル社会推進局と位置づけ、『あったかいDX』という名称を打ち出しながら、地域社会のデジタルとの接点を創出しています。DXによって、県民の方の時間に余裕が生まれ、家族や恋人との時間や趣味の時間、学びの時間として活用できるようになり、幸福実感が向上していくことを目的に取り組んでいます。要は企業・組織の効率化、生産性向上の先に、『誰の幸せのためのDXなのか』を考え、ジェンダー平等や地域のサステイナブル実現を目指すのが三重県の行うDX施策となっています」(田中氏)

2017年からジャパンタイムズの経営に携わる末松氏は「ジャパンタイムズを通じて、日本企業が行うESGの取り組みを世界に発信していく役目を担っている」と話す。

「ジャパンタイムズは、1897年創刊の日本で最も歴史のある英字新聞です。2013年からはニューヨーク・タイムズ(NYT)と提携し、Web版の閲覧数としては月間800万PV、300万UUを誇っています。英語圏へアプローチするのには最適な媒体ですが、とかく日本企業はせっかくいいプロジェクトやファクトがあるのに情報発信が苦手な印象を持っています。なので、英語を使って世界へもっと日本企業の素晴らしい取り組みを伝えるために、『 Japan Times ESG推進コンソーシアム』の発足や『Sustainable Japan Award』の開催を行い、日本企業と世界の架け橋となるべく、尽力しています」(末松氏)

三重県が掲げる「あったかいDX」とは?

ここからセッションは本題へと移る。今年はDX普及元年と呼ばれ、多くの企業がデジタル化の潮流を捉え、それぞれの未来を描いている。ちょっと先を想像し、2030年のデジタル社会を考える上で、各登壇者はどのような志を持っているのだろうか。

まず、三重県のDXを率いる田中氏は「2030年よりも先の未来である2050年を目指し、DXのビジョン策定をしている」とし、次のように説明する。

「自治体がビジョンを定める場合、一般的には知事と有識者委員会とで議論した内容を職員がまとめることが多いのですが、今回のDXにおけるビジョン策定では、まずは“動画”を作りました。それを県民と一緒に共有しつつ、『DXを活用してどんな未来へ向かっていきたいか』ということを県民とワークショップを通じて話し合い、自治体と県民が共創しながら作ることを心がけたのです。ただビジョンを決める際は、ジェンダー平等や地域循環共生、ウェルビーイング、サステナビリティの実現などをDXの大目標として忘れないように留意しながら進めていきました」(田中氏)

また、第四次産業革命によってテクノロジーが進化し社会が発展してきたなかで、田中氏は「デジタル化を単に進めていくよりも、地域の文化的課題を解決する方が難しい」と見解を示す。

「デジタルツールを導入すれば、DX化ができるわけではありません。ジェンダーバランスを50:50にしたり、地域の外の人材を活用したりすることなども同時に進めていかないと、本質的なDXは実現できません。三重県の掲げる『あったかいDX』は、圧倒的な“スピード”の事業推進によって、三重県がDXのトップランナーとして全国をリードするくらいの気概で取り組んでいます」(田中氏)

三重県デジタル社会推進局は、Zoomやslackをフルに活用し、リモートで働ける環境を作っているという。さらにはメールシステムの改善や、AI音声技術を活用したワクチンコールセンター、モバイルオーダーシステム導入による県内飲食店や宿泊施設のDX推進など、毎月新たな事業を発表し、まさに有言実行と言わんばかりのスピード感を持った事業展開を行なっている。

自治体DXを進める上で、三重県の取り組み姿勢や事業推進の仕方などは大いに参考となるのではないだろうか。

日本のローカルを語れる子供を育てていくことが大切

続いては末松氏が、2030年を見据えたデジタル社会に向けた抱負を語った。同氏は日本初の全寮制小学校「「神石インターナショナルスクール」の校長も務めており、企業の経営者でありながら教育者として子供と接する上で、「日本のことをしっかりと教えることが大切」だと考えているという。

「2100年に日本の人口は6,000万人になるといわれています。デジタル社会へのシフトも今後ますます進んでいきますが、私としては『世界の中の日本という、ローカルの側面をしっかり語れるような子供を育てていく』という使命感を持っています。日本の伝統や歴史を理解し、その地域の文化に触れ、学ぶ機会を得ているか。これらが今後の教育で非常に大事になると考えており、神石インターナショナルでも実践していること。日本にとっての当たり前が、海外では当たり前ではないことも子供たちに伝えていき、日本の未来を背負えるような人間力や感性などを養えるようにしていければと思っています」(末松氏)

また村上氏は、まだ誰も見えていない2030年のデジタル社会を見据える上で、次の2つの課題を解決しなければならないという。

「1つ目は、現在の個人の暮らしは分断管理されていて、暮らしをより良くしていくためには仕組みを変えることが求められていること。さらに2つ目は、DXを進めようと取り組んでも、山頂のない山登りをしてしまっている状況なので、DX推進の指針となる共通の目標を定めることが必要になります」(村上氏)

分断管理の例で言えば、学校、担任、生徒の全てが揃って初めて学習時間がカウントされ、卒業の対象となる学校教育が挙げられるだろう。特定の病院、かかりつけ医、患者が揃って初めて保険点数が動く医療保険制度も同様だ。そして、最たるものは市民サービスと言える。日本の戸籍法は、人が生まれた時から市町村が戸籍を作ることになっており、すべての人の生活はどこかの市町村に必ず紐づき、分断管理されることが大前提になっているわけである。

「昭和の頃は終身雇用による安定した時代だったゆえ、輪切りにされた個人の生活それぞれについて、紐づく先の誰かが面倒を見ていればそれで良かった。つまり、個人の暮らしを分断管理した方が便利だったわけです。しかし現在は、いろんな複合的な学びや医療、暮らし、働き方の存在する多様化社会であり、個人の望むライフスタイルを選ぶ時代なので、垣根のないデータトレーサビリティを作っていかないと、『誰一人取り残されない』と掲げるデジタル社会は真には実現できないと思っています」(村上氏)

変化を楽しむ好奇心と未来への想像力を持ってDXに取り組もう!

また村上氏は、今の日本のDXが“山頂なき山登り”をしてしまっている現状について言及する。

「共助にはビジョンが必要ですが、そのビジョンが共有できないため、結局のところ共同・共創作業が生まれなかったり、知見の集約ができずに何も創り出せなくなっているのが国内のDXで起きていることです。さまざまな企業が、いわば登山靴を開発しては、その性能をアピールしているものの、誰もその靴でどの山に登ろうとしているかを決めずにいるため、目標が共有できていない状態になっている。
山は山頂の頂が見えるからこそ、登りたいと思えるものです。一度みんなが目指し始めれば、最後はどんな登山道から登り始めてもいずれ必ず共同作業に行き着きます。そのための共助インフラは複雑なデータ連携基盤ではなく、できる限りライトで効率的なものであること。そして、データの取り扱いを常時管理できるインフラを創ることが大事になるでしょう」(村上氏)

ツール思考ではなく、目指す山頂を明確化すること。これこそがDX推進の勘所であり、デジタル社会形成において必要不可欠と言えるのではないか。

村上氏は「手段だけ、知識だけ、スキルだけ持っているだけでなく、山頂を描くことができ、かつ一緒に山頂を目指そうとリーダーシップを発揮できる人材こそDX人材だと呼べにふさわしい」と述べ、突破口をいかに見出していけるかの重要性を説いて、最後に意見をまとめた。

「山頂として信じるものがないと、コンプライアンスルールやコストシェアの問題も解決できません。縦に分割管理されたものを、横に最適化していく。部分的なところから徐々に初めていくためには、手を組み合う者同士がひとつの山頂をシェアしなければなりません。変化を楽しむ好奇心と未来への想像力を持って、オセロの碁盤をひっくり返すかのごとく、成果が出るまでやり抜く作業がDXであり、諦めないで継続していく人材がDX人材だと呼べるのではないでしょうか」(村上氏)

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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