SAP × オールバーズ × MPower PartnersによるESG談義。これからの大企業とスタートアップの共創に向けて

SAP × オールバーズ × MPower PartnersによるESG談義。これからの大企業とスタートアップの共創に向けて

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昨今、グローバルに広がるサステナブル経営。企業を取り巻く環境が一変し、企業の果たす責任が一段と増しているなか、経営のあり方が問われている時代といえよう。

既存の社会経済の基盤を根底から変えていかなければ、地球環境の悪化に歯止めをかけられず、人類の生存自体も危ぶまれると言っても過言ではない。

こうした状況をなんとか打破すべく、ESGやサステナビリティ領域で事業を創出するスタートアップが生まれてきている。Climate Tech(気候テック)と呼ばれる領域で事業展開するスタートアップは、まさに企業のサステナブル経営を具現化し、地球が抱える課題を解決するために取り組んでいるのだ。

去る2022年3月16日には「Global Climate Tech〜SUITz Launch Event〜」(株式会社アドライト主催)が行われ、サステナビリティ領域における有識者や国内外のスタートアップ関係者が集う場となった。(イベントの詳細についてはこちらの記事をご参照)

イベント内で行われた「ESGにおけるスタートアップとの共創戦略」をテーマにしたパネルディスカッションでは大企業、スタートアップ、ベンチャーファンドの各プレーヤーが集結。それぞれの立場から、Climate Techを取り巻く現状や将来性についてディスカッションされた。

セッション登壇者
・大我猛氏(SAPジャパン株式会社 常務執行役員 チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー兼デジタルエコシステム事業担当)
・箕輪光浩氏(オールバーズ合同会社 マーケティング本部長)
・鈴木絵里子氏(MPower Partners マネージング・ディレクター)
・木村忠昭氏(株式会社アドライト 代表取締役)※モデレーター

SAPが取り組む「3つのゼロの追求」

セッションの冒頭では、各登壇者の自己紹介&会社紹介が行われた。

各国のデジタル変革を担うSAPは「世界をより良くし、人々の生活を向上させる」というビジョンを掲げ、世界最大のビジネスソフトウェア企業として180カ国に拠点を有している。

SAPのシステムは、世界におけるGDPの約77%の経済に何らかの形で寄与しているとのことで、同社​​常務執行役員 チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー兼デジタルエコシステム事業担当の大我猛氏は「サステナビリティは非常に重要な役割を占めている」と語る。

「サステナビリティについては10年以上前から取り組んでいますが、そのアプローチは主に2つの視点から関わっています。まず、"ENABLER”という顧客支援の立場として、企業の持続可能性の課題や製品、サービス提供の機会を創出すること。そしてもう一つが、“EXEMPLAR”として自社の持続可能な事業運営を行うロールモデルの実践者としての立場になることです。特に後者が重要で、ソリューションだけ顧客に提供していても、模範を示せなければ説得力がない。つまり、ENABLERとEXEMPLARの両輪でアプローチしていくことが大事になってきます」

SAPのサステナビリティへの取り組みで掲げているのが、「3つのゼロの追求」というものだ。

・Zero emissions(CO2排出をゼロにする)
・Zero waste(ごみをゼロにする)
・Zero inequality(不平等をゼロにする)

CO2やごみの排出をゼロにしていくことはサステナビリティとの相関性が高く、さらには不平等もなくしていくことで包括的にサステナビリティの追求を行っているわけである。

では、IT企業としてサステナビリティ経営をどのように支援しているのか。大我氏は「『経営層への見せる化』、『実務層への見える化』の2つのレイヤーに分けてソリューションを提供している」と話す。

「図のように、CO2排出、ごみの排気量、ダイバーシティ観点からの平等性などを可視化できるソリューションと、それらを会社全体で一元管理できるソリューションを提供することで、企業のサステナブル経営のサポートを行っています」

また、サステナビリティをテーマにしたスタートアップとの協業プログラム「SAP.iO Foundries」を、世界10拠点で実施しているという。日本ではSustainable LabやZeroboardといったスタートアップと連携し、実践型スケーラレータとして、スタートアップとの共創や支援を手がけているとのことだ。

サステナビリティの感度を高めるオールバーズの価値観

続いては、オールバーズ合同会社(Allbirds)マーケティング本部長である箕輪光浩氏による会社紹介である。

オールバーズは2016年にサンフランシスコで生まれた企業で、2021年11月に米ナスダック(NASDAQ)に上場。元プロサッカー選手のTim Brownと、バイオマテリアル系の専門家であるJoey Zwillingerの2名が共同創業し、急成長を遂げたスタートアップと言えるだろう。

ファッション業界は、世界で最も二酸化炭素を排出している業界の一つであり、早急なカーボンニュートラルへの対応が求められている。そんななか、オールバーズは環境負荷を可能な限り少なくするために素材を削ぎ落とし、シンプルにすることで、軽量かつ履き心地のよいスニーカーを生産してきた。

日本には2020年1月に上陸し、原宿と丸の内に店舗を構えている。

「オールバーズは『Better things in a better way(より良いことを、より良い方法で)』というミッションを掲げ、どうやったら世の中をもっと良くしていけるかを常に考えています。それはプロダクトだけでなく、コミュニケーションや社員の生き方など多様な側面で捉えるようにしています。社員の価値観は図示した3つの行動規範が基軸になっていて、『子供のような気持ちで、大人の頭を持って行動していく』ことを心がけ、さらには接客時にもお客様に伝わるようなわかりやすい言葉を使い、決して難しい表現にならないよう留意しています。そして、サステナビリティに対して積極的な意識を持って行動していくことを目標に、社員全員が取り組んでいる状況です」

また、オールバーズはビジネスの力で気候変動を逆転させることをパーパスに、持続可能な事業ひいては持続可能な社会の実現に向けて、新しいことへ挑戦していく姿勢や哲学を大事にしているという。

特にサステナビリティは会社の中でも非常に重要視されており、常に高井優先順位で議論がなされているとのことだ。

ESG投資のフレームワークがまだまだ整備されていない

3人目は、MPower Partners マネージング・ディレクターである鈴木絵里子氏が登壇した。

同氏は幼少期から海外に住んでいたこともあり、サステナビリティへの関心をずっと抱いていたという。地球環境を良くする仕事がしたいと、大学時代にはマイクロファイナンス機構でのインターンを経験し、卒業後は金融業界へ就職。キャリアを歩むなかで、現在のベンチャー投資に関わるきっかけになったのが、ドローンのスタートアップの立ち上げに携わったことだったという。

「シリコンバレー発のSKYCATCH社は、産業用ドローンを作るスタートアップでしたが、当時はまだドローンビジネスの黎明期で、先行きが見えづらい状況でした。そこからひょんなご縁からコマツ社を繋いでいただき、オープンイノベーションという形で日本上陸のお手伝いをさせていただいたんです。そこから孫泰蔵さんがファウンダーを務めるMistletoe(ミスルトウ)へ入ることになり、ベンチャー投資の世界に関わるようになりました」

Mistletoeではインパクト投資に関わり、次いで転職したFresco Capitalでは、アグリテック系スタートアップのNinjacart(インド)や宇宙スタートアップのSpire(アメリカ)など、さまざまな領域のベンチャー投資の経験を積んできたという。

そんな背景を経て現在、鈴木氏が在籍するMPower Partnersは、日本において早くからESG重視型のファンドとして打ち出している。投資分野は、テクノロジーを活用してスケールさせ、サステナブルな暮らしに寄与するスタートアップを中心に置いているとのことだ。

日本でもようやくESG重視型ファンドの登場というわけだが、「まだまだスタートアップにおけるESG投資のフレームワークは整備されておらず、課題も多い」と鈴木氏は言及する。

「資金もリソースも限られるスタートアップが、ESGを考えながらスケールさせていくことはそう簡単なことではありません。正直まだ道半ばだと思っている一方で、着実にフレームワークは形作られている感じはあります。とはいえ、スタートアップごとにESGのどの領域を重要視すべきかのマテリアルや、それを決めた場合のKPIの設定、さらには全体で管理していくためのガバナンスなどが不明瞭なので、これらをしっかりと整備していくことが今後やっていくべきことであり、我々自身も挑戦していきたいと考えています」

SDGsの17番目は、スタートアップにとって“ジョーカー”になりうる

ここからは各登壇者を交えたパネルディスカッションが行われた。

最初は「スタートアップが果たすべき、サステナビリティの役割」をテーマに、意見を寄せ合った。

SAPの大我氏は「サステナビリティ領域を問わず、新しい産業を生み出す上でスタートアップの果たす役割はすごく大きい」と述べる。

「2005、6年におけるクリーンテックの台頭で、サステナビリティの関心が一次的に高まりましたが、その頃はビジネスとして循環させることが現実的ではなく、産業としては成立しなかった過去がありました。それから15年ほど経過し、今またサステナビリティが盛り上がっていますが、ここでしっかりと産業になっているかでいうと、そうとも言い難い状況です。そんななかで、スタートアップの果たす役割は重要だと捉えていて、気候変動の課題解決を図るClimate Techもあれば、ダイバーシティなどのソーシャルインパクトをもたらすサービス、循環型経済を目指すスタートアップなど、さまざまな領域があります。SAPも3つのゼロを掲げていますが、自社だけでは当然ながら達成できないので、こういったスタートアップと共創していくことが必須だと考えています」(大我氏)

スタートアップの当事者としてビジネスを展開するオールバーズの箕輪氏は、どのような考えを持っているのだろうか。

「オーガニックの野菜だからって皆が食べないように、単にサステナビリティを謳ったところで、消費者は買わないわけです。サービスやプロダクトと真摯に向き合い、磨きあげていった上でサステナビリティを追求することで、初めて購買につながっていきます。コロナ前の購買要件における調査によれば、デザインや価格、ブランドバリューに加えてサステナビリティを重視するかという項目では、欧米の人は7割近くがチェックを付けたのに対し、日本は半分くらいにとどまっていました。それが、ここ最近の日本ではZ世代を中心にサステナビリティを重視するようになってきていて、その世代としっかりと寄り添っていくことが大切だと思います」(箕輪氏)

また、個社ではなくパートナーシップを組んで他社と共創していくことが重要になると、箕輪氏は続ける。

「我々のような小さなスタートアップでも、アディダスさんのような大企業と組み、オールバーズが強みとするカーボンフットプリントのメソッドを共有しながら、一緒にシューズを開発することができています。SDGsの17番目『パートナーシップで目標を達成しよう』は、スタートアップにとってトランプの“ジョーカー”のようなものだと思っていて、そのカードを切り札にどんどん色々な企業へ提案しにいける。なので、スタートアップはジョーカーをもっと使って、積極的にパートナーシップの連携をしていくのもいいのではないでしょうか」(箕輪氏)

またMPower Partnersの鈴木氏は「スタートアップと大企業の協業を通じて、サステナビリティは推進できる一方、双方で時間がかかるものだという共通認識をもっておくことが肝になる」とコメントする。

「投資する対象としてスタートアップをみるときは、やはりビジネスで成功するかしないかを重点的に判断しています。こうしたなかで、大きな投資リターンとして成功を考えたときも、ユニークで先進的な事業を行っているスタートアップだからこそ、リスクも高まることを念頭に置かなければならないでしょう。時間もかかるし、リスクも背負う。それでも、企業ごとに合った形で協業方法を探していけば、いい結果が生まれてくるのではと思います」(鈴木氏)

サステナビリティ領域はイノベーションの宝庫

SDGsの潮流が高まり、さらにはサステナビリティを追求する社会へと進んでいくなか、各社は今後どのような取り組みや展望を抱いているのだろうか。大我氏は「これまでの資本主義のあり方を見直す時期に来ているのでは」と見解を示す。

「資本主義社会の限界に、皆がだんだんと気づき始めている状況だと思います。そこで、まず大事になるのは企業が行動を変えることです。特に我々は大企業と仕事をする機会が多いのですが、大企業のサステナビリティやESGに対する考え方を根幹から変えていく必要があると感じています。サステナビリティが経営戦略の横に添えられるものではなく、経営戦略の中核に据え、いかにビジネスを持続的に成長させていくかを考えていくことが求められるでしょう。そういったマインドセットの変化をSAPとしても支援していきたいと思っています。また、政府へのアプローチを変えていくことも必要だと実感していて、例えば非財務情報の開示については関係省庁と話し合っており、大きなモメンタムを生み出せるようなルールづくりもやっていければと考えています」(大我氏)

箕輪氏は「サステナビリティの領域はイノベーションの宝庫である」とし、今後の抱負について次のように語る。

「2050年のカーボンニュートラル達成に向け、まだまだ道のりが長いわけですが、20年前を振り返ると、スマホもなければタバコも至る所で吸われていたわけです。つまり、人の行動は時代とともに変わっていき、今の若い世代の意識も変わっていく。そうしたときに大我氏さんがおっしゃった企業の努力に加えて、政治への参画も大事になってくるのではと、そう考えています。若い世代とシニア世代の投票率の差や、政治への関心の有無などいろいろあるとは思いますが、企業としてサステナビリティへの姿勢を若い世代へと発信し、アクティビズムを伝えていくことが求められてくるでしょう。オールバーズとしても新しい商品を開発していき、サステナビリティの発展に貢献していきたいと考えています」(箕輪氏)

最後に、鈴木氏は「サステナビリティの発展が進めば、働き方も変化してくる」と、他の登壇者とは違う視点で意見を述べ、パネルディスカッションを締めくくった。

「スタートアップがESGを取り込んでいく際に、一番最初に出てくるベネフィットは株価に影響するものではなく、いい人材が確保しやすくなることです。Z世代に関しては、購買行動も選挙の投票に対する意識も変わってきていますが、何より企業のパーパスに沿ったところで働かないと、簡単に辞めてしまうようになってきています。欧米では大量退職(Great Resignation)という動きも出てきていて、今後日本でもこういった流れになりうると思っています。だからこそ、働き方の観点でもサステナビリティに通じるものが重要になってくるのではないでしょうか」(鈴木氏)

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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