Climate Techスタートアップピッチ大会レポート(SunGreenH2、Divigas、VoltStorage、ワープスペース、Recursive、ReGrained)

Climate Techスタートアップピッチ大会レポート(SunGreenH2、Divigas、VoltStorage、ワープスペース、Recursive、ReGrained)

目次

グリーン水素、通信衛星、次世代再生エネルギー、フードエコシステムetc…。

イノベーティブなプロダクトやサービス、システムを創造し、二酸化炭素の削減や地球温暖化問題と向き合うのがClimate Tech(クライメートテック)だ。

2022年3月16日に開催された「Global Climate Tech〜SUITz Launch Event〜」では、日欧米の有望スタートアップ10社が集い、熱いプレゼンテーションが行われた。

今回も前回に引き続き、各社のピッチ内容をサマライズし、Climate Techの現状について追っていきたいと思う。

SunGreenH2 Pte. Ltd.(シンガポール)

Tulika Raj氏(SunGreenH2 Pte. Ltd. CEO)

SunGreenH2は独自のモジュール式高効率電解槽システムを活用して、ナノテクノロジーによるグリーン水素を開発するスタートアップだ。

水素燃料から水素の輸送をはじめ、供給や利活用を含めたさまざまな領域がある水素関連市場は、今後の成長がますます期待されている分野の一つだが、グリーン・低炭素市場はそれを凌ぐほどの爆発的な成長がここ10年くらいで予想されているという。

全体的な水素関連市場は化石燃料で生成されているが、CO2の理想の目標値を大きく上回る10倍もの量が排出されてしまっているのだ。それに対して、電解槽を用いて水素を作りだせるようになると、CO2の排出量をゼロにできるクリーンな水素生成が可能になる。

しかし、同社CEOのTulika Raj氏は「グリーン水素市場は急成長しているものの、伝統的な化石燃料による製造コストに比べ、5倍ほど高いコストがかかってしまう」と課題を挙げる。

「酸素経済から脱炭素経済へシフトするためには、いかに製造コストを下げるかを考えていかないと、水素経済は成り立ちません。また、電解槽でのグリーン水素を生成すること自体がボトルネックになって、我々の技術をもってしても市場では高コストになってしまっています。業界全体でもプラチナや金などを用いて電解槽を使っているため、コストが跳ね上がってしまうのが課題です」

そんななか、SunGreenH2ではモジュール式高効率電解槽システムを開発した。これは、水素が2倍製造できるほか、生成に必要な原材料やエネルギーを削減することで、低コストで提供できるように調整された技術だという。

「最終的にはコストを下げながら、グリーン水素を実現していき、流通もできるような事業の青写真を描いています。メーカーやSIと協力していきながら市場投入をしていき、電解槽のデザインについては長期的な視点で研究を進めていく方向性で考えています。一方で、独自に構築した電解槽システムについては、大量販売して収益が上げられるようにしていければと思っています」

Divigas(オーストラリア)

Andre Lorenceau氏(Divigas. Co-Founder, CEO)

独自の水素分離膜技術で、地球環境に配慮したクリーンな水素製造を行うDivigasは、製油所、化学、工業処理業者向け工業用膜のサプライヤーを担うスタートアップだ。

現在の水素は基本的に天然ガスや石油から作られており、その後の精製工程においては主に2つの方法があるという。1つは薬品を使う方法、そして2つ目は分離膜を用いる方法があり、どちらに対してもメリット・デメリットが存在する。

薬品を使えば高度な技術でコストがかかり、他方で分離幕を使えばシンプルで安くできる代わりに強度の面で懸念が残ってしまうというのだ。

そこで、Divigasでは耐久性があり、さまざまな業界で応用ができる、拡張性のある分離膜を開発した。

CEOのAndre Lorenceau氏はソリューションの特徴として、「H2S(硫化水素)やCO2といったさまざまなガスに対応可能になっている。また、従来よりも高温であっても水素を作れ、低価格で提供できるのが我々の強みになる」と語る。

また将来的に水素の需要がさらに高まるなか、Andre氏は「多様なユースケースに対応できるので非常にポテンシャルが高いと感じている」と続ける。

「天然ガスから水素を精製する仕組み、バイオマス燃料を用いた水素の製造、グリーン水素の貯蓄など、幅広いユースケースが考えられます。また、我々のソリューションはCO2削減に貢献し、環境負荷にも優しいものになっていて、すでに8社のクライアントと仕事をさせていただいています。また、パイロット(試験的にソリューション導入を行うこと)を希望する企業からの依頼も入ってきているような現状です」

今後は生産量を上げ、さらにパイロット試験がうまく軌道に乗れば、グローバルへの拡大も視野に入れているという。

VoltStorage Inc.(ドイツ)

Michael Peither氏(VoltStorage Inc. Founder&CTO)

VoltStorageは、次世代再生エネルギーを開発するスタートアップであり、太陽光や風力といった自然エネルギーを、独自ストレージ技術を用いて24時間安定稼働させる仕組みを提供している。

「再生可能エネルギーに、いつでも接続可能なバッテリーを持たせる」ことをミッションに据えている同社。Founder & CTOを務めるMichael Peither氏によると、バッテリーの長期保存にビジネス性を見出したのは、「既存の風力発電は電力に基づくものであり、かつベースロード発電所に依存する側面があるから」とのことだ。

また、火力発電や用水路を生かした発電所の場合は広大な土地が必要で、自然エネルギーにはいくつもの課題がある点も同社の競争力を高めるポイントになっているという。

「我々は、Fe(鉄)とCl(塩素)という豊富に存在する元素をもとにした鉄塩電池を開発しました。これは、バッテリーの製造単価が10ユーロ以下でできるようになるほか、幅広い温度で稼働でき、10000回充電しても劣化しないほどの耐久性を持っています。持続可能な充電、放電に優れていることもあり、基幹電力を世界中に供給できると考えています」

このような、特許を取得したコアテクノロジーをもとにしたバッテリーはすでに市場へ数百台納入されており、今後は商業的なプロダクトとして、さまざまなセクターへ出していく予定だという。

「写真のバッテリーは50KW/hですが、これをメガワット、ギガワットへと拡大していきたいと考えています。産業用あるいは商業用問わず利用するシーンを開拓していきたいですし、既存の自然エネルギーのように新たなエネルギー源として使われるようにビジネスを成長させられるよう、尽力していきます」

株式会社ワープスペース(日本)

北原明子氏(株式会社ワープスペース CFO)

2016年に設立したワープスペースは、前身の大学衛星プロジェクトから数え、これまでに3機の通信衛星を打ち上げているスペーステックベンチャーだ。民間として世界初の衛星間光通信ネットワーク「WarpHub InterSat」の実現を果たし、宇宙空間利活用の拡大を目指している。

衛星通信における最大のボトルネックは、宇宙から地上への通信が極めて限定的で、大量のデータを地上にダウンリンクできない問題がある点だ。その機会損失額は、およそ1800億ドル(約20兆円)にものぼるという。

同社CFOの北原明子氏は、具体的なペインについて以下のように述べる。

「現状の低軌道衛星は、通信圏外にいる時間が90%にのぼります。つまり、10%のデータしか利活用されていないわけです。また、通信衛星1機につき、国際周波数利用の事前調整に約24ヶ月以上もかかってしまいます。このような宇宙産業の課題解決を図るべく、WarpHub InterSatを活用した衛星間光通信ネットワークの構築に取り組んでいます」

WarpHub InterSatの特徴として、低軌道衛星の外側に複数機の光通信ネットワークを構築することで、常に高速かつ即時の通信を可能にし、なおかつ周波数の調整も不要になるという。地球観測産業は今後も急拡大が見込まれており、2030年までに30兆円規模にまで成長するポテンシャルがあるそうだ。

この市場が発展することで「持続可能な社会や経済への課題解決につながっていく」と北原氏は話す。

「現状の1日1回の分析から、リアルタイムで衛星通信のデータを分析できるようになれば、農業や林業、漁業などの一次産業の活性化や、物流の可視化、災害時のモニタリングなどに活用可能になるでしょう」

ビジネスモデルとしては上図のとおり、宇宙通信キャリアとしてのインフラ整備や運用等のサービス料と、地球観測衛星からの通信料が、主な収益源となっているという。

宇宙光通信は、地球観測や月の開発、惑星探査、大陸間通信など、宇宙を取り巻く産業の発展に伴い必要不可欠な存在になる。ワープスペースは、日本発の宇宙光通信インフラにおけるトップキャリアを目指していくとのことだ。

株式会社Recursive(日本)

山田勝俊氏(株式会社Recursive Co-founder&COO)

CO2測定やESG評価の可視化を行えるプラットフォー ム「Dataseed」を開発するRecursiveは、2020年8月に設立されたスタートアップ。2011年にGHG(Greenhouse Gas)プロトコルが策定したScope3基準のみならず、ESG評価の可視化からソリューションまでをワンストップで提供するESG経営オールインワンプラットフォー ム「Dataseed」を開発している。

同社のCo-founder & COOを務める山田勝俊氏は、現在のESGにおける課題について以下の3つを掲げる。

「まず、132あるESG評価機関の評価手法や項目が異なるゆえ、ブラックボックス化していること。次に、市場に出回っているプロダクトの多くがCO2算定に特化しており、他の項目の可視化ができないこと。そして、ESGの評価から見える化、ソリューションの提供まで行うサービスがなく、高額なコンサル費用が発生していること。これらの課題を解決するために我々が開発したのがDataseedでした」

DataseedはESG経営のオールインワンプラットフォームとして、ESG評価のデータ収集やAIを駆使した改善提案・レポート作成、サプライチェーン全体のESG管理など、多種多様な機能を搭載。得られる効果としては、金融機関、HR、IR、ブランディングの4つが挙げられるという。

さらに、ESG経営の「今」を可視化することにより、現在の状況把握を容易に行え、透明性を向上させることにもつながる。投資家や金融機関へのプレゼンスを高められるのはもちろん、どこが足りていないのかを定量的に一元管理できるので、目指すべき目標決めやプライオリティを明確に定めることが可能になっているという。

感覚に頼らない意思決定を行うことで、ESG関連のリスク軽減やコスト削減につながり、安定したESG経営を実践するのに役立つツールになりそうだ。

ReGrained Inc.(米国)

※ReGrained Inc.は当日ピッチではなく録画によるピッチでの実施となりました。

地球環境に優しいフードエコシステムを構築するために2019年に創業されたReGrainedでは、食品における生産や製造のプロセスで発生する副産物(栄養素が残っているものの、廃棄する可能性がある食品)を、独自のアップサイクル技術を使って新たな機能性食材を開発しているスタートアップだ。

ビールやコーヒーなどを製造する過程で生じる廃棄物は、通常ではゴミとして捨てられてしまうわけだが、穀物や野菜の皮の部分には概して多くの栄養素が含まれている。

他方で上図のように、年間に大量の廃棄物が出されていることも、食品業界の大きな問題として危惧されている。

ReGrainedが手がけるアップサイクルビジネスでは、このような有機廃棄物を活用して、小麦のような粉(Grain)を生産している。この粉はイノベーティブな技術で作られており、さまざまな風味づけをすることが可能になっている。

同社のCo-FounderでありChief Grain OfficerでもあるDaniel Kurzrock氏は「我々のアップサイクル食材は、味も栄養もサスティナビリティも、全ての要素を満たしたものになる。現状は他の会社の食品を、我々の粉を使って再開発したりと、一歩ずつビジネスを広げている」と語る。

欧米アジアのサスティナビリティに取り組むスタートアップが一堂に会し、ピッチが繰り広げられたが、共通として言えるのは、ビジネスとして経済圏を作ろうとしていることだ。

せっかくのいいアイデアやサービスであっても、継続できなければ意味をなさないだろうし、地球環境の改善にはつながりにくい。

今回ピッチを行ったスタートアップのプレイヤーが、サスティナブルな社会の実現に向けての旗振り役となり、未来の地球をよりよくしていく。そんな未来を感じさせる11社のピッチであった。

ぜひ、興味のあった企業のホームページにもアクセスしてみて、ユニークなソリューションアプローチを確認してみていただきたい。(各プレゼンターの紹介文字列に企業ホームページリンクを付しています)

編集:長岡 武司
取材/文:古田島大介

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