磐梯町の旅する公務員は「脱デジタル」の夢を見るか?町長とCDOらによる働き方DX談義 〜超DXサミットレポート

磐梯町の旅する公務員は「脱デジタル」の夢を見るか?町長とCDOらによる働き方DX談義 〜超DXサミットレポート

目次

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、いまや産業や業種、組織の枠を超えて連携し、テクノロジーによってイノベーションが生まれるような様相を呈している。

去る2022年9月6日から8日にかけての3日間は「超DXサミット(Super DX/SUM)」が開催され、スタートアップや行政、大企業などあらゆる産業でDXを推進するフロントランナーが集結し、熱いセッションが繰り広げられた。

今回は2日目に行われたセッション「磐梯町(ばんだいまち)の旅する公務員」を取り上げ、自治体DXの現在地と先進的な取り組みについてレポートしていく。

これまで地方自治体のあり方をゼロからデザインしてきた磐梯町では、職員のライフスタイル・ライフステージに合わせた働き方を目指し、どこでも仕事ができる状態の1つのゴールの形として「旅をしながら働く」をコンセプトに取り入れ、そのための基盤を官民連携して整備してきた。

その先にあるビジョンは「脱デジタル」だと言う。どういうことなのか。自分らしく生きる公務員の在り方について、熱いパネルディスカッションが行われた。

  • 佐藤 淳一(磐梯町 町長)

  • 菅原 直敏(磐梯町 デジタル変革戦略室 最高デジタル責任者)

  • 小野 広暁(磐梯町 デジタル変革戦略室 室長)

  • 渡部 久美子(磐梯町 デジタル変革戦略室 地域プロジェクトマネージャー、愛媛県 チーム愛媛DX推進支援センター センター長)

  • 箕浦 龍一(一般社団法人官民共創未来コンソーシアム 理事)※モデレーター

セッション内容のグラレコ

※xDXでは、本セッションの様子をグラフィックレコーディング(グラレコ)でも表現しています。「記事を読む時間がないけど内容を知りたい!」という方は、サマリー情報として、ぜひこちらをご覧ください!

“顔がわかる町”で実践する自治体DXの足がかり

福島県磐梯町は、会津地方の中部にある人口3,300人ほどの小さな町。東北屈指のスノーエリアである磐梯山をはじめ、豊かな自然が魅力の地域だ。

そんな磐梯町では、他の地方自治体と同様に少子高齢化が進み、人口も逓減していることから、過疎化が叫ばれていた。そんな中、2019年11月に全国初の「自治体最高デジタル責任者(CDO)」を設置し、さらには2020年7月にデジタル変革戦略室を設け、デジタル変革の推進を積極的に行ってきた。

こうしたまちづくりが評価され、「日経 自治体DXアワード 部門賞」を受賞。DXを体現する地方自治体としても、新たに注目を集めている。

佐藤 淳一氏(磐梯町 町長)

セッションの冒頭では、磐梯町 町長の佐藤 淳一氏が、現在取り組んでいることや磐梯町で実際に起きていることのイントロダクションについて紹介した。

「私は令和元年に町長に就任し、DXを推進してきました。磐梯町の人口は昭和30年の約8,000人をピークにだんだんと減少の一途をたどっていて、約60年で人口が半減するほど縮小しています。いわば“顔がわかる町”と言え、地方の小さな町という立ち位置なわけですが、どのようにして町の魅力を発信し、人口の減少に歯止めをかけられるかが課題となっていました」(佐藤氏)

佐藤氏が民間から町長へ移った際、最も課題と感じていたのは「従来型の縦割り行政」という運営のあり方だったという。

「今と比べて人口が多かった頃は、縦割り行政のもと、地域課題を行政主導で解決していくやり方でもよかったのですが、近年ではさまざまな課題が出てきていて、住民と協働で課題解決を図っていく仕組みを作ることが重要になっています。つまり、行政の変革が求められており、住民一人ひとりの課題をどう吸い上げ、解決していけるかが大切になるというわけです」(佐藤氏)

こうした流れのなか、住民と行政が共に課題解決を図っていく仕組みづくりの手段として、デジタルの導入を強力に押し進めることになったという。

この際に重要なことは、「デジタルはあくまで手段であり目的を達成するために使うもの」だと佐藤氏は強調する。状況によってはアナログも選択しつつ、『デジタル化は地方の将来を救う』、『デジタルで共生社会を実現』、『先行者利益の確保』を掲げながら、CDOである菅原 直敏氏と協力しながら進めていったと言う。

だが、DXで具体的に何をするのか。どのように課題を解決するのかが明確化されていないと、DXの推進はなかなかうまくいかない。大切なことは、行政職員がいかにDXの目的と勘どころを理解し、実際のアクションへ移せるかという点に尽きる。

これに対して磐梯町では、以下4つの観点からDXを推進していった。

「行政はどうしてもピラミッド型の組織ゆえ、どうやってフラットな組織を作っていけるかが非常に大事なポイントでした。それに加え、町として目指すビジョンや行政としての使命、職員の行動ルールなどを決め、DX推進のための行動指針を明確化することを心がけました」(佐藤氏)

こうしたMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)のなかで、佐藤氏が強調したのは「すべては町民起点で考える」ということだ。町長起点ではなく、町民が暮らし続けたいと思ってもらえるようなまちづくりを、町長の目線で考えていくことが重要だと捉え、DXを推進してきた。

そして2020年には、磐梯町総合計画の中に、自治体として初めてとなる「共生社会・デジタル変革」の項目を新設。

さらには「複業的クリエイティブ組織」として、さまざまな複業人材が活躍できる土壌を整備。行政職員は4名のみ(図のオレンジ部分の役職)で、そのほかはすべて複業人材がデジタル変革戦略室の一端を担っている状況だ。

「旅する公務員」と打ち出した理由と磐梯町の将来像

菅原 直敏氏(磐梯町 デジタル変革戦略室 最高デジタル責任者)

ここからは最高デジタル責任者の菅原 直敏氏にバトンタッチし、磐梯町におけるデジタル変革の戦略とプロセスについて説明がなされた。

「これまで行政としては、ヒト・モノ・カネを軸に課題解決を図ってきましたが、人口がどんどん減っている状況では、そのようなやり方が機能しなくなってしまいます。そうなったときに、第4の手段としてデジタル技術も活用していくというのが、磐梯町のぶれない姿勢にあります。最近でこそ、『ウェルビーイング』や『誰ひとり取り残さない』といった文脈でDXが語られるようになりましたが、磐梯町としては当初から一貫してこのような姿勢を貫いてきています」(菅原氏)

一方で具体的な将来像へとブレイクダウンし、どのような青写真のもとでデジタル変革を進めていくかを明文化しないことには、アクションを担うメンバーの共通認識を醸成することはできない。そこで菅原氏は、以下にある6つの将来像を定めた。

今回はこの中でも、「働き方の再デザインについて重点的に説明がなされた。

磐梯町の将来像のひとつとして、職員誰もがそれぞれのライフステージにおいて、自分らしくやりがいを持って働ける環境を作ることを示したという。それを象徴する言葉として“旅”を選び、「旅する公務員」というキャッチフレーズが浮上したそうだ。

「『旅する公務員』という形の働き方を実現するには、リモートワークの標準化はもとより、情報システムのクラウド化やゼロトラストセキュリティなどのデジタル技術が必須になってきます。つまり、旅する公務員という世界観を支える存在がデジタル技術になっているわけで、今までのようなシステムやツールに行政が合わせていくやり方は採用しない形で進めてきました。人によって『子育てをしながら仕事をしたい』、『介護をしながら働きたい』など、それぞれの思いを実現しながら仕事を両立させていくことが大事になります。それに対してリモートワークとの相性が非常に良いことからも、“旅”という言葉を選択しています」(菅原氏)

公務員は「役所のルール、役所の掟、役所の常識」の3つに縛られている

小野 広暁氏(磐梯町 デジタル変革戦略室 室長)

デジタル変革戦略室 室長の小野 広暁氏は、旅する公務員という世界観を実現するための実務を担ってきた当事者だ。「言うは易く行うは難し」ということわざがあるが、実際に磐梯町が理想とする働き方に向けては、多くの試行錯誤を繰り返してきたという。

「まずはシステムの部分を変えていく。そして、法的な条例規則を変えていく。これをやっていった先に、ようやく公務員が自由に働けるような環境が整備されるという段取りがありました。私は旅する公務員の目的をレコードになぞらえた『A面』、『B面』、『B面 ボーナストラック』の3つで表現しました」(小野氏)

小野氏は、2022年8月に埼玉県横瀬町へ出向き、現地の職員や住民と交流を図りながら、行政業務にあたったという。しかし、公務員としての仕事をする際は、「役所のルール、役所の掟、役所の常識」の3つに縛られながら仕事をするのが前提となっていると説明する。

「役所のルールは法律条例規則、これは絶対に遵守しなくてはならないことです。ただし、判例によってさまざまな解釈も可能になっていると言えます。我々が変革していかなければならないことは、役所の掟と役所の常識でした」(小野氏)

例えば公務員のテレワークを阻害する要因を考えた場合、役所のシステムに起因して現地にいないと仕事ができない(進めにくい)といった設計になっていることや、住民が使いやすい情報プラットフォームが整備されていないといったことは当然考えられる。だが、テレワークを阻害している真の要因は「役所で仕事しなければならない」という精神的な呪縛だと、小野氏は強調する。

「これをなんとかしていかないと公務員のテレワークなんていつまで経っても実現できないので、職員の意識自体を変えていく必要があると考えました」(小野氏)

渡部 久美子氏(磐梯町 デジタル変革戦略室 地域プロジェクトマネージャー、愛媛県 チーム愛媛DX推進支援センター センター長)

磐梯町 デジタル変革戦略室 地域プロジェクトマネージャーを務める渡部 久美子氏は、磐梯町のビジョンである「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり」という言葉に感銘を受け、磐梯町へ移住。現職に就いた経緯をもつ人物だ。

「地域プロジェクトマネージャーにはさまざまな定義がありますが、私は庁舎内の役場の方々や町民の方々、さらには町内の民間企業や事業者の方々など、多くのステークホルダーの足回りを担う橋渡し役の立場にあります。週3日テレワークを行いながら、残りの営業日は個人事業主として愛媛県のDX推進にも携わっています。磐梯町の町民に向けてスマホ教室を開いたり、インターネット回線のモデムの設定を一緒に行ったりすることで、『私の顔を覚えてもらい、何かあればいつでも相談ください』というのを町民の皆さまに伝えることを意識しています」(渡部氏)

こうした渡部氏の働き方は、まさに旅する公務員の一例だと言えるかもしれない。

「磐梯町という町に縛られて生きていくわけではなく、『住む場所も働き方も自分で選択して生きていきたい』という考えを尊重してくれるのが磐梯町の特徴です。なので、この町で子育てをしながら、楽しく暮らすことができています」(渡部氏)

これに対してモデレーターを務める官民共創未来コンソーシアム 理事の箕浦 龍一氏は「佐藤さんが磐梯町の町長に就任し、3年でここまで組織や仕事のやり方を変えてきたのは本当にすごいこと。行政における経営の力がすごく大事であると感じた」と感想を伝えた。

場の雰囲気はちょっとずつ変わってきている

「職員を変える。組織を変える。」と一口に言っても、それを具現化していくのは並大抵のことではないだろう。

磐梯町がデジタル変革を掲げてから3年間。プロジェクトの渦中で、多くの経験をこなしてきたデジタル変革戦略室 室長の小野氏は、どのような所感を抱いているのだろうか。

「私は正直に申しますと『反デジタル派』で、『町長が変わったからといって何が変わるのか』ということで、当初はデジタル化に対してもあまり期待していない側面がありました。佐藤さんが町長になられて菅原さんがCDOに就任されたとき、私は総務課にいまして、職員研修をお手伝いしていたのですが、最初は『DX=デラックス弁当』という話から始まったんです。DXが浸透していく流れを見ても、『DXは人を分断するもの』だという認識が芽生えていましたが、町長からなぜかデジタル変革戦略室 室長に任命されて現在の職務に就いているという背景があります。そのときはまだ、DXについて半信半疑に思っていて、『磐梯町のこれからはどうなってしまうのか』という懐疑的な念をもっていました」(小野氏)

デジタルは手段でしかなく、本質的には人の生活がより良くなっていくものでなければならない。小野氏は、デジタルで目指すべき本当の姿を次第に理解していき、「行政がやろうとしているデジタル変革は人と人を繋げていくものだということに気づき、現在進行形でDXを進めている状況だ」と説明する。

「町民起点でDXを推進していくためには、行政の掟や常識は壊していかないといけない。そう考えているところです。町長のリーダーシップもさることながら、PMの渡部や私も現場の職員や町民と顔を合わせ、膝を突き合わせながら議論を進めています。磐梯町の職員には、まだ旧態依然としたやり方に固執する部分が垣間見えますが、町長のリーダーシップを追い風に我々が現場でデジタル変革を率先してやっていくことで、場の雰囲気はちょっとずつ変わってきているなと感じています」(小野氏)

いかに縦割り組織から、情報がフラットに共有できる協働組織にしていけるか

民間から町長へと大きく“キャリアチェンジ”した佐藤氏だが、従来型の縦割り組織を前提とする役所においては、各ステークホルダーとの協働は大きなハードルだったことが想像される。

乗り越えなければならないコミュニケーションの課題を解決するために、組織の風土や職員の意識をどのように変えてきたのだろうか。これについて佐藤氏は、「町長に就任したときに改めてわかったのは、『行政と民間は全く違う』ということだった」と話す。

「情報のスピードの観点で言えば、縦割り組織ゆえに情報が縦にしか流れないですし、情報を持っていることで、自分の立場を守りたいという考えから情報を隠してしまう体質もありました。なので、情報を皆で共有し合うことで職員それぞれが担当する役割ごとに仕事を任せられるよと。そうすれば部長や課長といった管理職は楽になり、さらにお互いが対話していくことで、面白い方向に進められるよと。こういったことを掲げつつ、最初に取り組んだのは社内SNSツール『Teams』の導入でした」(佐藤氏)

佐藤氏が町長に就任した当初は、1日にメールが1〜2通しか届かず、これだと仕事が成り立たないと思ったのもTeamsを取り入れる大きな要因だったと言う。

「情報を横に繋いでいく仕組み」と「議論する場所」を関係者全員で作っていくことが、協働する組織へと変革する上で重要なことだ。だが、組織全員がフィジカルで議論する場を設けるのはなかなか難しい。だからこそ、その代わりとしてネット上で共有化する形にしていくことで、情報を見える化し、誰もが議論や対話に参加できるような仕組みへと昇華されるわけだ。

「Teamsを導入した初期はなかなか組織に浸透しませんでしたが、使っていくうちに利便性が高いと職員が感じ始め、次第に普及していきました。そうなると、組織の垣根を超えて、みんなで議論しながらさまざまな課題の解決を図れる体制が整ってくることになります。最近、庁舎内では全てTeamsを導入して、コミュニケーションを活発化させながら、日々業務に取り組んでいます」(佐藤氏)

一方で菅原氏は、先ほどの箕浦氏(モデレーター)の言葉を引き合いに出し、「私も経営者なので、DXはあまり意識せずに経営を行っているような感覚を持っている」と見解を示す。

「民間でも行政でも、経営は『目的に対し、あらゆる手段を用いて持続的に実現していく』というシンプルなものです。私自身、議会人や行政の人間といった異なる立場で20年来関わってきていますが、基本的には『管理しかしない』ような印象を抱いています。そういう意味でも、経営という考え方が重要になってきます。その経営を実現しようと思ったときに、グローバルではICTスキルを持っておくことがスタンダードになっています。
他方で、行政の職員はICTの勉強をしたがらない傾向があり、ここが日本の行政の大きな課題だと思っています。私は『行政が変われば日本も変わる』と考えていて、行政も変われば民間も変わっていき、ひいては日本全体に波及していく。よく行政のお役人は固いと言われますが、それがあるからこそ、住民も生きづらさを感じてしまうわけです」(菅原氏)

また、菅原氏は行政の職員が持つ「固く振る舞わなければならない」という固定観念を外してあげることも大切になると付け加える。

「国が定める法律以外の条例や規則であれば、町の裁量で変えることができます。なので、我々はそこまで入っていきながら、個人を尊重できる世界を作っていきたい。それを実現するために、行政の経営をどうしていくか。目指す世界に近づくための手段としてデジタル技術があり、それを支援する我々のような人材がいて、そのようなスキームを作っています」(菅原氏)

町民の顔を覚えるのに徹した結果、少しずつ成果が出ている

箕浦 龍一氏(一般社団法人官民共創未来コンソーシアム 理事)

議論が白熱するなか、箕浦氏は「行政が変わりにくいもうひとつの要素として、議会や住民の目線を気にしている職員が多いことも挙げられそう。そのあたり、現場で町民と接する渡部さんや小野さんは、この3年間で町民が磐梯町の取り組みに対する受けとめ方の変化についてどのように感じているのか」と疑問を呈した。

小野氏は「町民に対するデジタルサービスの中で、一番大きいのはICTシステム『CoDMON(コドモン)』を導入したこと」だと語る。

「保護者と学校との連絡が、全てスマートフォンでできるのは、すごく便利だと思っています。また、地域内でお金が循環するように、地域デジタル通貨『ばんだいコイン』を導入していますが、それを使うためのデジタルリテラシーを向上させるサポートもしっかりやっていくことを念頭に置いています。そういったことを地道に行うことで、全ての住民を変えることは難しいかもしれませんが、興味を持った2〜3割の住民でも動き出してくれれば、町の雰囲気が変わってくるのではと感じています」(小野氏)

また渡部氏は、ばんだいコインやスマホ教室など、さまざまなプロジェクトの責任者として関わっているなかで、「誰にでもできることを、とことんやり続けるのが大切」だと話す。

「去年、私が磐梯町に来たときは一人も知り合いがおらず、現場に顔を出しても信頼していただけませんでした。なので、行政のプロジェクトを遂行する傍ら、町民の方に顔と名前を覚えてもらうことをひたすらやってきました。
今一番意識しているのは、チームで動くことです。室長とバディシップを組んでしっかり仕事を作っていきますし、このバディシップをデジタル変革戦略室というチームで取り組んでいく。2年目はこのチームの顔を、町民の方に覚えてもらうのを意識しています」(渡部氏)

町長とCDOが大事にする「ベースづくり」とは

自分たちがやりがいをもって働けるというのは、官民問わず、これからの働き方で最も重要なことだと言えるだろう。磐梯町の旅する公務員は、まさにウェルビーイングを体現した働き方だと言え、「日本の働き方のトップランナーになりつつある」と箕浦氏は絶賛した。

こうしたなか、旅する公務員の将来像を、佐藤氏はどのように見据えているのだろうか。

「町長になって、職員全員と面談をしたのですが、民間のように『部長に昇任したい』、『起業したい』という熱意よりも『組織の中で勉強していきたい』、『自分の仕事ができるようになりたい』といった堅実な回答が多いように見受けられました。このような実態を知ったこともあり、もっと目標をもって仕事に取り組んでほしいと思っていますし、今の現状を打破していくためにも、自由に動けるような仕組みも整備していかなくてはならないと考えています」(佐藤氏)

また、佐藤氏は「公務員の副業」についても言及し、一人ひとりの“引き出し”を増やしていくことの大切さを説く。

「これからの時代、さまざまな知識・スキルを身につけ、多様な課題を解決していかないと生き残っていけなくなってきています。だからこそ、公務員の方はいろんなところに勉強に行く、もしくは副業して新しい知識を得ることが大切になるでしょう。単純に旅をして、旅先で仕事をするだけではなく、自分自身の引き出しをどう増やし、知識を蓄えるかが、旅する公務員の将来像を考える上で肝になってくると考えています」(佐藤氏)

自治体DXを地で行く存在として注目を集める磐梯町は、最終的に目指すビジョン実現に向けて、2022年7月には“脱デジタル宣言”を掲げ、新たな局面に差し掛かっている。具体的には、「磐梯町デジタル変革戦略第2版」にて掲げる6つの将来像のうちの1つが「デジタルからデザインへ~脱デジタル宣言~」となっており、デジタル技術を扱っていることを意識せずとも、職員が業務にあたっている状況を実現することを「脱デジタル」と表現しているわけだ。

セッションの最後には、佐藤氏と菅原氏が“経営目線”で考える磐梯町の未来について意見を交わした。

「DXで一番大事なことは『ベースづくり』だと思っています。情報を横に共有したり、外で自由に働けたりというベースができてこないと、いくら新しいことをやろうと働きかけても前に進みません。職員の意識改革はもちろん、町民と協働で磐梯町のまちづくりを進めていく土壌が整ってくれば、町民にも『磐梯町はこういうことを目指しているんだ』という輪郭が見えてくるので、一緒に手に取り合ってプロジェクトを推進することができます」(佐藤氏)

これに付随して、現在ちょうど、磐梯町総合計画の後期計画を1年前倒しで見直している最中だと言う。

「前は時間が十分にとれなかった関係で菅原さんと一緒に作りましたが、後期計画は町民を巻き込みながら、ワークショップやアンケートを通じて、しっかりと意見を取り入れていく方針で作っています。目標が明快になれば、DXを活用するのかアナログを使うのか、それ以外の手段を取ればいいかの判断ができるようになります。来年の3月に向けて、これからも粛々と進めていければと思います」(佐藤氏)

これに対して菅原氏は「脱デジタル宣言ははじめから決めていた」とし持論を述べ、セッションを締めくくった。

「今、磐梯町が取り組んでいるのは人づくり、組織づくり、そして仕組みづくりです。でもこれは来年には出来上がるわけで、そのあとはあえて組織を作らなくても、デジタルを手段として捉えられるようになると考えています。選択できる社会を作るには、デジタル技術が大きな役割を果たすでしょう。そのためには繰り返しになりますが、人づくり、組織づくり、仕組みづくりといった土台を構築しないことには実現できないでしょう」(菅原氏)

取材/文:古田島大介
グラレコ作成:えの季
編集:長岡 武司



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