デジタルツインのメリットとは?基本概要から事例まで解説!
目次
デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが盛んになり、製造業にも進化したIT技術が浸透しています。製造業を中心に導入されているのが、現実の空間をデジタルの空間に再現する新しい技術である「デジタルツイン」です。IoTやAIなどのデジタル技術を使ったシミュレーションにより、将来の予測に役立てられます。
デジタルツインとはどういう仕組みで、どんな技術が用いられているのでしょうか。本記事では、デジタルツインの概要とともに、メリットや事例もご紹介します。ぜひご参考にしてください。
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デジタルツインの基本概要
デジタルツインとはどういうものなのか、まずは基本的な概要を確認していきましょう。
そもそもデジタルツインとは?
デジタルツインとは、現実空間(=フィジカル空間)とデジタル空間(=サーバー空間)を連携したシステムのことを意味しています。フィジカル空間から収集したデータをコンピューター上に再現する技術です。ビジネスの効率化だけでなく、状況の変化に合わせてスピーディな対応が可能な体制を整えるために活用されています。
デジタルツインを導入しているのは、主に製造業の分野です。効果的に生産設備を運用する方法として検討されています。デジタルツインの技術によって、工場内にある製造装置や生産過程にある製品の形状を、そのままコンピューター内に再現することが可能です。
デジタルツインを利用すれば、フィジカル空間にある現実の工場を、サイバー空間にあるコンピューター上の工場に丸ごと再現できるようになります。生産条件の効果をテストしたり、装置を連続稼働させた場合にかかる負荷を予測したりすることは現実の世界では困難です。しかし、デジタルツインを導入することで、リアルタイムでシミュレーションを行う環境を整えられます。
デジタルツインが注目される理由
企業ではデジタルトランスフォーメーション(DX)化によって、デジタル技術を駆使した業務改革が進んでいます。DXを取り入れる主な目的は、生産性や利益性をアップさせること。DXで収集した大量のデータはAIで分析され、マーケティング戦略や経営方針などに使われています。
同じデータをデジタルツインでも活用することで、正確性が高い予測が実現できると注目されているのです。現実に近い精度のデータがあれば、デジタルツインでの検証結果の正確性は高くなります。
DXを使った変革プロジェクトの中には、すでにデジタルツインが組み込まれたものがあり、保守メンテナンスや新規開発に役立てられています。
デジタルツインに利用される技術
デジタルツインにはさまざまな技術が使われています。代表的な技術について詳しく見ていきましょう。
・IoTデータ
サイバー空間に現実の工場を丸ごと再現するためには、フィジカル空間にある大量のデータをサイバー空間に取り込まなければなりません。そのために重要なのがデータの収集手段として活用されるのが「IoT」です。
製品や製造設備が持つセンサーやカメラでフィジカル空間のデータを自動的に取得し、リアルタイムでクラウド上に送信し続けることで、サイバー空間にデジタルツインを構築することが可能になります。
・5G
現実空間から収集したデータはクラウド上に集約するため、通信技術も重要なポイントです。「5G」は、次世代の通信技術として2020年に提供がはじまりました。高速で大容量のデータ送受信ができる、通信の遅延が低く接続が安定しやすい、多数の機器をネットワークに同時接続できるのが特長です。
IoTには、検知した外部の情報を判別できる信号に置き換える「センサ」という装置があります。センサが多くなるほどひとつあたりのデータ取得頻度が上がり、通信に必要なデータ量が大きくなることに。デジタルツインに5Gの技術を組み合わせることで、高精度な情報をコンピューター内に再現できます。
・AI
人工知能と訳される「AI」もデジタルツインに欠かせない技術。デジタルツインでは、クラウド上に集まったデータから将来を予測していくため、より確かな分析が必要です。AIは膨大なデータを効率よく分析でき、情報量が多くなるほど精度が高まります。
現実のフィジカル空間では関連性がわからない事象が起こることもありますが、AIは関連性がわからないデータも含めた高精度の将来予測が可能です。
・AR、VR
フィジカル空間のデータを収集・分析したら、人間がわかるように表現しなければなりません。サイバー空間を視覚的に表現するために用いられているのが「AR」や「VR」の技術です。「AR」が持つ拡張現実技術と、「VR」のサイバー空間をフィジカル空間のように表現する技術によって、デジタルツインを現実のように感じられます。
デジタルツインを導入するメリット
続いて、デジタルツインがどんなメリットをもたらすか見ていきましょう。
設備の予防保全
デジタルツインとIoTデータを結びつけることによって、データに基づいたメンテナンスが可能になります。製造業でデジタルツインの導入が進んでいるのは、設備保全の効果を期待できることが要因のひとつです。
製造ラインや製品にトラブルが発生したときに、センサがデジタルツインと連携して、リアルタイムにデータの収集と分析を実行し、トラブルの原因を素早く特定できます。また、過去のデータから事前に機器の故障を予測するため、予知保全の実現も可能です。
品質向上とコストダウン
デジタルツインを導入すると試作品をフィジカル空間で作成する必要がないため、コストを抑えられるのがメリット。デジタルツインではサイバー空間で製品を繰り返し試作することが可能です。
試作品のデータはすぐフィードバックされるため、試作数を少なく抑えられます。サイバー空間でトライアンドエラーの回数を重ねることで品質向上につながるのもメリットです。
顧客へのアフターサービス
デジタルツインは顧客に対するサービス向上もメリットのひとつ。出荷後の状態をデジタルツインで確認することによって、顧客の手元に届けた製品の状況を把握できます。
たとえば、バッテリーの消耗を把握することで、バッテリー交換のアフターサービスを提供することが可能です。適切なタイミングでアフターサービスを提供できるため、顧客満足度を高められます。
デジタルツインの導入事例
最後に、デジタルツインがどのように活用されているか事例をご紹介します。
FIFA
デジタルツインはスポーツの場にも導入されています。2018年に開催された「FIFAワールドカップロシア大会」は、デジタルワールドカップと呼ばれた大会です。「VAR(ビデオアシスタントレフェリー)」や「ゴールラインテクノロジー」など、さまざまなデジタル技術が採用されました。
とくに注目された「Electronic Performance & Tracking System(EPTS)」は、出場全チームに提供されたシステム。選手の動作を記録・分析が可能なデジタルツインの技術です。カメラから取り込まれたリアルタイムな情報がタブレット端末に取り込まれ、采配に活用されました。
コマツ
「コマツ(株式会社 小松製作所)」は、建設をはじめ、鉱山機械やユーティリティ(小型機械)、林業機械、産業機械などの事業を展開する企業です。施工全工程をデジタルでつなぐことを目的にデジタルツインを導入しています。
ドローンを使った3D測量、3D施工計画とシミュレーション、ICT建機とアプリによる3D施工・施工管理、ドローンを使った3D出来形検査によって、建設生産プロセスをデジタル化しましたフィジカル空間である現場と、サイバー空間の現場を同期させて施工の最適化を行うことで次のようなメリットを得ています。
・同じ情報をリアルタイムで共有
・毎日のデータに基づいたPDCAで施工を最適化
・未来の正確な予測
・情報蓄積による事故リスクの検証
国土交通データプラットフォーム
国土交通省は業務の効率化などを目的に、国土交通省が保有している多くのデータと民間などのデータを連携させたデジタルツインを導入しました。建設業のデジタルツイン実現に向けて整備されたのが「国土交通データプラットフォーム」です。
3次元データ視覚化機能、データハブ機能、情報発信機能を持つ国土交通データプラットフォームの構築を進めています。2021年には、国土交通データプラットフォーム上で、「BIM/CIMデータ」と「3次元点群データ」の表示や検索、ダウンロードが可能になりました。
デジタルツインの導入は課題の解消に役立つ
製造業を中心に導入されているデジタルツインは、フィジカル空間とサイバー空間を連携させたシステムです。現実世界の工場を丸ごとデジタルの世界に再現できます。デジタルツインにはIoTやAIなどの技術が利用され、高精度の将来予測が可能になりました。
設備の予防保全、コストダウンと品質向上、充実したアフターサービスなどを実現できるのが大きなメリットです。デジタルツインはさまざまな課題の解消につながる新しい技術といえるでしょう。
文:xDX編集部 画像提供:pixabay, Getty images