メタバース時代で光り輝く。東映が持つデジタルヒューマンを「演出」する力

メタバース時代で光り輝く。東映が持つデジタルヒューマンを「演出」する力

目次

メタバース時代が到来する中、存在感がさらに増すであろうデジタルヒューマン。その研究開発を推進する、東映ツークン研究所の主席ディレクター・美濃 一彦氏のインタビュー後編をお届けする。

今回は、ARやVRなどのXR領域の展望やデジタルヒューマンを活かすために欠かせない条件について聞いた。

※この記事には前編があります。
▶︎前編はこちら

デジタルヒューマン普及のカギは「コンテンツ」

東映ツークン研究所で導入されている高精度キャプチャシステム「LightStage(ライトステージ)」

――今後デジタルヒューマンが普及するカギは何になりますか?

美濃:従来のメディアに縛られない横断的なコンテンツだと思います。それは、エンタメのフィールドに限らず、より日常に近いところにどんどん実践されていくだろうと確信しています。個々のテクノロジーは揃い始めていて、組み合わせによっては今までとは異なる体験を創り出せる、という手応えもあります。

――それはゲームや映画、アニメとも異なる体験になりますか?

全く異なるとも言えますし、それらの間にあるものとも言えます。

例えばテレビは仮想空間やAR、VR、メタバースとは対極的に語られがちですが、まだ一家に一台あるテレビのポテンシャルは大きいと個人的に思っています。先端技術とテレビを組み合わせることで、次世代の視聴スタイルを作れるのではないかと。そんな発想が今後はさらに重要になると感じています。

デジタルヒューマンに関しては社会実装を続けることで、マスメディアからソーシャルメディア、パーソナルメディアへの変化に応じてアウトプットの仕方を柔軟に、幅を広げていけるかが軸になりそうです。

メタバースに限定すれば、経済性をどのように確立するかなど各所で試行錯誤されていますが、私はキーワードの一つは「双方向性」だと思います。これまでの一方通行の考え方だとフィールドが変わるだけ、これを昇華させるコンテンツが生まれるかどうかがカギです。ユーザー同士で新たなクリエイティブを生みだせるプラットフォームが求められています。

――5年後10年後は、そのプラットフォームでどんどんコンテンツが展開されていくと。

とはいえ、そのときに映画など従来の表現手法の価値が置き変わるとは思えないので、それぞれの強みをいかにうまく掛け合わせられるかが大きなポイントになるのではないでしょうか。

テクノロジー観点では、デジタルヒューマンを作る技術と、仮想空間技術のメタバースやXRをうまく組み合わせていきたいですね。

デジタルヒューマンの“声”をどう作るか

――ところで、デジタルヒューマンの“声”って、どうなっているのでしょうか?

音声合成技術の品質もかなり上がっていることがわかってきました。取り組み方は様々で、音声モデルについて企業や大学と積極的に連携しています。ただ、外見も内面も声も、すべてがそれぞれの課題解決に取り組みながら今の品質を作り上げてきた歴史のある中で、これからはそれらを束ねて一つの形にしていく別のフェーズに入ったといえます。

10年前は、それぞれの要素技術をとことん突き詰めて精度を上げる勝負でした。ところが今は、様々な要素技術が揃い、それらをどのように組み合わせるかが重要であり、さらに我々はその上に、エンタメ要素をどう取り入れて価値を高めていくかに挑戦しています。

まだまだ課題は多く、技術的な部分はもちろん、デザインやUIなど多岐にわたっているのも現状です。

今後はデジタルヒューマンの肖像権についても急激に整備が始まるものと予測しています。架空の人物を作り出して私たちがその肖像権を扱うのかどうか。さらに、例えば映画の出演俳優をデジタルヒューマン化し、プロモーションとして街中に立たせる場合など、事務所や本人の肖像権も関わってきますから、権利問題の整備は今後数年で取り組むべき最重要課題です。

――見方によっては実在する俳優にとってもチャンスが広がりそうです。デジタルヒューマンとして街中に立つのであれば、デバイスにとらわれなくなるとも言えますね。

そうだと思います。そのためのカギがCG技術で、3Dデータで開発さえしておけば、平面のコンテンツやXR系コンテンツ、メタバースにも転用でき、デバイスも問いません。

視聴デバイスは進化を続け、それこそホログラムも夢の話ではないところまで来ています。有名俳優が街中にパッと出てきて道案内をするという時代が来ても、おかしくはありませんよ。

イノベーションの源泉は「オープンソース」にあり

――デジタルヒューマンに関しては、スタートアップ含めてテックに強みを持つ企業が多く取り組んでいます。そのなかで、東映ツークン研究所が業界に貢献できる点はどこになるでしょうか。

たしかにデジタルヒューマンに関する技術力を持っている企業はほかにも多くあるはずです。ただ、どう扱うかというマネジメントを含め、見せ方や演出などの観点で私たちと他企業では一線を画しています。

例えば、自然言語処理に強みを持つ企業、英語教育で活用する企業、広告分野に強い企業など様々です。各社が得意分野を伸ばしていくことで、デジタルヒューマンの活用アイデアは広がり、普及が進むのではないでしょうか。まずは普及に向けての取り組みが一番大事ですね。

メタバースについては動向を注視しています。技術トレンドは浮き沈みがあるものだと思うのですが、デジタルヒューマンとの相性は良いものだと考えています。

――技術の世界では、オープンソース化とそこに対するエンジニアのコントリビューション活動によって性能を高めていく動きがイノベーションの源泉になっています。映像業界でも似たような動きはあるのでしょうか?

そこは非常に活性化されていますね。10年前とはまったく異なり、ある種ディープフェイクなどで有名になったAI系のツールはオープンソース化されているので、もちろん私たちも利用できます。

我々が普段使うCG制作するためのソフトウェアさえもオープンソースの波には抗えません。品質の高いソフトウェアがどんどん出てきたことで、個人のクリエイターやエンジニアでもかなりの精度の映像やXRコンテンツを作ることができるようになりました。メタバース上にコンテンツを作り上げることも、今では当たり前になっています。

今後は、ユーザーがメタバース上で自分の世界をつくり上げ、双方向性のコンテンツの土壌が形成されるのではないでしょうか。さらにブロックチェーン技術が組み合わされ、今以上にメタバース上の経済性が一般化されていく可能性は高く、企業と個人の関係性も大きく変わっていくはずです。

お客様に楽しんでもらえるものを作り続けたい

――昨今メタバースが急激に話題に上るようになったことへの、率直な印象を聞かせてください。

個人的には、メタバースを一種のバズワードのように捉えてさほど意識していませんでした。どちらかというと、メタバースそのものというよりかは、仮想空間技術全般の進化という見方で大いに注目しています。

現在は、コロナ禍が後押しする形で多くの個人や企業が様々な仮想空間技術に関する取り組みをを始めています。そのアプローチの中心にあるのはリアルとバーチャルの融合、つまりはリアルコンテンツをバーチャルの力を使ってスケールアップさせるという考えだと思います。

メタバースは、そのバーチャルにおける表現技術のひとつという位置づけだと捉えています。ただし、ARをはじめとするXR系技術の方が今のところ一般に受け入れやすいイメージがあり、普及スピードは早いかもしれません。

たとえば、野球場やサッカースタジアム、ショッピングモールを訪れたときに、XR系技術を取り入れることでプラスアルファの体験コンテンツを作ることができます。さらに、ユーザーは帰宅後にもメタバースを活用し、続きのエンタメやECを楽しむ。企業もそこで得た情報を活用して、顧客体験価値の向上に繋げるなど可能性が広がります。

――最後に、いろいろな可能性が広がる今のお仕事で、特にご自身が興奮すること、ワクワクすることを教えてください。

若い頃は映画やドラマといった、大きいタイトルに関わることがモチベーションと言えました。自分の仕事を家族や友人に観てもらえることも嬉しかったですね。

ただ、年齢を重ねた今は、作品規模の大小に関わらず自分が納得いくもの、純粋に自分が良いと感じること、そしてたくさんの人を笑顔にさせられる作品を作りたいと考えるようになりました。

キャリアの初期はデスクに24時間座りっぱなしでCGソフトと向かい合い、映像制作に励んできましたが、これからはCGやエンタメ業界での経験を活かし、もっと日常に近いところでのエンタメの社会実装に時間を費やしたいと考えています。展示やイベント、テーマパーク、複合施設などのコンテンツ企画開発から、従来の形に捉われないまだ誰も知らない新たなメディア創出まで、少しでも貢献できればいいですね。

編集:山田 雄一朗
撮影:長岡 武司
構成:鈴木 友

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