東京ガールズコレクションのメタバース戦略とは?「バーチャルTGC」が目指す次世代ファッションショーを探る

東京ガールズコレクションのメタバース戦略とは?「バーチャルTGC」が目指す次世代ファッションショーを探る

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華やかな演出が広がる中で、モデルがランウェイをさっそうと歩くなど、エンタメ要素溢れるファッションショー。シーズンとなる春夏(S/S)と秋冬(A/W)に合わせてさまざまなショーが行われているが、その中でも国内随一の規模と知名度として名を馳せているのが

史上最大級のファッションフェスタ「東京ガールズコレクション」(以下、TGC)である。

このTGCは「日本のガールズカルチャーを世界へ」をテーマに、2005年8月から年2回の頻度で開催。今をときめくタレントやモデルが総勢100名以上出演するほか、人気音楽アーティストによるライブパフォーマンスや著名ゲストを迎えてのトークショーなど、多彩なコンテンツラインナップが特徴となっている。

また、直近開催された『第35回 マイナビ 東京ガールズコレクション 2022 AUTUMN/WINTER』(2022年9月3日開催)では総体感人数がのべ約812万人に上り、「イベントメディア」としての影響力も非常に高い。

そんなTGCだが、2022年3月にはスマートフォン向けメタバースアプリ「バーチャルTGC」を本格ローンチしており、これまでリアルの会場で行われていたファッションショーやアーティストライブといったTGCの世界観を、3Dバーチャル空間で再現。バーチャルTGCならではのコンテンツを設け、新たな体験価値の創出にも取り組んでいる。

まさに、名実ともに国内最高峰のファッションショーと言っても過言ではないTGCだが、このメタバース時代において中長期的にはどんなビジョンを描いているのだろうか。

今回は、TGCを企画・制作する株式会社W TOKYOの上席執行役員 ブランディング事業局 局長を務める辻本 優一氏に、「バーチャルTGC」の取り組みとメタバース時代のファッションショーへの考えについて伺った。

コロナ禍をきっかけに立ち上がった「バーチャルTGC」

TGCの初期から参画してきた辻本氏は、協賛企画の立案や広告営業などのプロジェクトを担ってきた人物。現在はTGCのネットワークやコンテンツ力を生かした新規事業の開発に取り組んでいる。

いわばTGCとともにキャリアを歩んできたわけだが、約15年前の立ち上げ当初から現在に至るまで、ファッションショーに求められるトレンドはどのように変遷していったのだろうか。

「初期の頃のTGCでは、赤文字系や青文字系などと分類されたファッション雑誌に出ていたモデルや、テレビに出演していたタレントの方がステージを盛り上げていました。出演者を構成する割合としても、紙媒体やテレビのようなマスメディアで活躍するキャストがメインだったわけですが、時代とともにSNSが普及し、メディアの多様化が進むにつれて、YouTuberやTikTokerといったネット発のインフルエンサーが台頭してきました。
“今一番旬なモデルやタレント”が集まっている点に変わりはありませんが、キャストの構成がよりバラエティに富むようになってきたのが、昨今のトレンドとして感じるところです」

その時々で人気絶頂であるモデルやタレント、アーティストが一堂に会することで、TGCは魅力的なメディアとして機能し、多くのオーディエンスや協賛・パートナー企業に影響を与えられるようなファッションの祭典へと昇華していったのだろう。

そんなTGCが、新たにバーチャルを活用した体験価値を創造するために「バーチャルTGC」をローンチした背景にはどのような理由があるのか。

©︎バーチャルTGC2022A/W

辻本氏は「コロナ禍という予想もしなかった有事が一番のきっかけになっている」とし、バーチャルTGCを立ち上げた背景をこう話す。

「個人的にバーチャル空間で何かやろうとは、コロナ以前から思っていたことですが、リアルイベントの絶大な支持があったことから、そこにわざわざ投資する理由は見当たりませんでした。それが2020年のコロナ禍で、リアルイベントが次々と中止に追い込まれ、TGCに関しても2020年のS/Sは史上初の無観客開催での実施を余儀なくされました」

当時、誰もいないステージでモデルがランウェイを歩く様子をライブ配信していたわけだが、辻本氏はその様子を見ながら「オンラインで臨場感や熱狂をどう伝えるかということを、これから先は考えないと厳しいのでは」と感じたという。

そんな折に、少しずつ注目度が高まっていたメタバースに着目し、何かできないかと模索し出したのがきっかけだったという。コロナ禍によってメタバースを表現できる技術的基盤が整ってきたタイミングでもあったことから、TGCもバーチャル空間上で感動や熱狂を分かち合える新たな体験の創出に活路を見出したわけだ。

TGCの世界観を3Dバーチャル空間で再現するべく、W TOKYOと共同で開発を進めたのは、エンタメテック(Entertainment × Technology)分野に特化した事業に強みを持つIMAGICA EEX(イマジカ イークス)社。「リアルとバーチャルの垣根を超え、新たなエンタテインメントを生み出す」という思いのもと、両社はバーチャルTGCの開発を進め、2021年8月にはβ版を、2022年3月には正式版をそれぞれリリースするに至った。

©︎バーチャルTGC2022A/W

バーチャルならではの「動機付け」の設計が大切

かくして立ち上がったバーチャルTGCだが、辻本氏は「TGCをオンラインで楽しむためだけのプラットフォームとしては作っていない」と強調する。

「バーチャルTGCはリアル開催のTGCと連動させ、単にTGCの世界観を再現するものではなく、バーチャルならではの新しい体験やコンテンツを創り出すことを意識しました。『リアルより楽しいかもしれない』をコンセプトに、TGCの来場者をモチーフにしたおしゃれなアバターを作成し、さらにはバーチャル空間内でコインを集めたり、アトラクションで遊んだりと、ゲーミング要素を取り入れました」

空間内では、ブースやSNS映えスポットなどの体験型コンテンツを楽しめる「ロビーエリア」のほか、隠された鍵を集めた人しか入れない「VIPラウンジ」など、バーチャルTGCでしか味わえない体験価値に向けた工夫が各所に見られる。もちろん、TGCの醍醐味であるランウェイを鑑賞できる「ステージエリア」も設けられており、臨場感の高いスペシャルパブリックビューイング(生配信)が実施される仕様となっている。

©︎バーチャルTGC2022A/W

これらの設計を進める上で特に意識した点は、バーチャルTGCの「ユーザー層」だという。メタバース空間といえば、ともするとVRゴーグルを使ったリッチな体験を想像しがちだが、TGCのユーザーは普段からゲームをやる層とは異なっている。それゆえ、ファッションが好きでトレンドに敏感な若い女性でも気軽に使いやすいようなUI/UXを考え、さらにはスマホがあれば楽しめる「モバイルアプリ」として提供したわけだ。

また「アバターデザイン」についても、角ばったポリゴン状のものではなく、ユーザー自身のファッションスタイルを投影できるような見た目になるように意識して設計したという。

©︎バーチャルTGC2022A/W

このようなメタバース空間ならではの体験設計をする際に大事なことは、バーチャルTGCで遊んでもらう「動機付け」をすることだと辻本氏は強調する。

「TGCはYouTubeやLINE LIVEでの配信も並行して行っているため、ステージでのファッションショーやアーティストライブ自体は会場でなくとも楽しめます。それとは別にバーチャルTGCをダウンロードして遊んでもらうためには、バーチャル空間でしか味わえないアバターファッションの着せ替え体験や、ゲーム要素溢れるコンテンツ、人気アーティストの限定コンテンツなどを取り入れることが肝になってきます」

「ファッションメタバース」としてバーチャルの可能性を広げたい

一方でバーチャル展開に伴う課題点についても、辻本氏は次のように言及する。

「アバターデザインはかなり凝って作ったので、アバター1人あたりのデータ容量が大きくなり、1空間あたりに収容できる人数はせいぜい50人〜100人くらいまでとなっています。TGCのリアル会場ではのべ約3万人(※)ほどが来場しますが、バーチャルTGC内の人数規模感では、どうしてもライブイベント感が出せない点が課題だと感じています」

※無観客開催となる前のスタンディングを実施していたときの数字。現在はオールシーティングなので約2万人の来場者数になる

またスマホアプリであるが故に、リッチなコンテンツやボリュメトリック(自由視点)技術を用いたライブ体験も難しく、そこも課題の一つだと辻本氏は続ける。

「今後のデバイスやテクノロジーの発展によって、低容量であってもよりリッチな表現が実現できるようになるでしょうが、それまでは表現の幅がどうしても制限されるかもしれません。ただ、いずれにしても、将来的にメタバースが生み出す体験価値はさらに向上していくと予想しています」

©︎バーチャルTGC2022A/W

現に、バーチャルTGCにおける企業の引き合いは増えているという。これからの時代、トレンドによる波はあるものの、メタバース空間を使ったビジネス展開はより加速することが想定される。そんな、Z世代の先にいる“メタバース・ネイティブ世代”のニーズについて、辻本氏はどのように捉えているのか。

「個人的には、本当の意味でメタバースがライフスタイルへ染み出してくるのは、もう5〜10年くらいかかるのではないかと考えています。バーチャル空間上に人が集まらないことには何も始まらない。そう感じていて、現段階だとゲーム以外のユースケースは見聞きしないように思います。
そうしたなか、TGCはリアルイベントをメタバース空間に持ってくる取り組みに積極投資しているので、我々がバーチャルの可能性を広げる先駆者になりたいと考えています。多くのユーザーを巻き込めるようにバーチャルTGCをもっとブラッシュアップしていき、“ファッションメタバース”としての新境地を切り開く気概を持って尽力していく予定です」

©︎バーチャルTGC2022A/W バーチャル空間を通じた地域の魅力を発信できた事例として「北九州市PRブース」がある。ここでは、北九州市観光大使藤原樹さん(THE RAMPAGE from EXILE TRIBE)のフォトスポットや北九州市を拠点に活躍するクリエイティブな方々の等身大の姿を届ける動画「New U begins」を公開。また、2022年11月19日(土)に西日本総合展示場新館にて3年ぶりに開催される『TGC KITAKYUSHU 2022 by TOKYO GIRLS COLLECTION』のPRも行った

定期的にバーチャルTGCで遊べるよう、リアルイベントとの連動を強化

まだ発進したばかりのバーチャルTGCだが、ゆくゆくはTGC経済圏のような形でバーチャルTGCでの「流通」の創出を目指すと、辻本氏は将来へのビジョンを語る。

そして、そのための鍵となるのがアルファ世代のユーザーであり、既存のF1層(20〜34歳くらいまでの女性)よりもさらに年齢が下のティーンネイジャー(10代)にもターゲットを広げ、バーチャルTGCのコンテンツを作っていると言う。

「バーチャルTGCでは今後、ルーム機能やユーザー同士でファッションの評価をし合えるような機能も拡充していきたいと考えています。リアルのTGCと同様、友人同士がバーチャル空間に入って一緒に体験を共有したり、アバターの着せ替えを楽しんだりと、自発的なコミュニケーションが生まれるようにアップデートできればと考えています」

©︎バーチャルTGC2022A/W

その上で中長期的な展望として、辻本氏は「地方都市でもTGCを開催することで、ユーザーがバーチャルTGCにログインする機会を増やしたい」と抱負を語る。

「バーチャル空間の箱自体はありますが、イベントがない期間については有効活用できていないわけです。そのため、今後はTGC以外のイベントもやれるように検討したり、山梨や北九州、静岡など2ヶ月に1度のペースで開催する地方開催のTGCとバーチャルTGCを連動させ、ユーザーがバーチャルTGCに定期的にログインしてプレイするような流れを作っていければと思っています」

ライター後記

筆者も先日行われた『第35回 マイナビ 東京ガールズコレクション 2022 AUTUMN/WINTER』のタイミングで、バーチャルTGCを実際に体験してみたが、非常に面白くプレイすることができた。

アバターを操作しながら大きくジャンプしたり、実際にランウェイを歩いたりと、バーチャル空間ならではの体験を味わえ、さらにはステージエリアの巨大なスクリーンで、リアル開催のTGCの様子も鑑賞できる。

リアルイベントの熱狂は何物にも代えがたいものであるが、メタバース空間に入り込み、アバターになりきってさまざまな体験を享受できるのは非常に魅力的であり、今後さらなる可能性を秘めているのではないか。そう感じずにはいられなかった。

これからのバーチャルTGCの発展に期待したい。

 

取材/文/撮影:古田島大介
編集:長岡 武司

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