旧山古志村がNFTを発行した理由と熱量が素晴らしかった 〜Web3 Conference Tokyo 2レポート

旧山古志村がNFTを発行した理由と熱量が素晴らしかった 〜Web3 Conference Tokyo 2レポート

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2022年7月15日、Web3特化のグローバルカンファレンス「Web3 Conference Tokyo Vol2」が開催された。主催したのは、Web2.0とweb3の架け橋となることを目指す「Mask Network」。次世代ソーシャルネットワーク全体を支えるミドルウェアとして、たとえばFacebookやTwitterなどの既存SNSからDAppsに接続する機能等を開発・提供しているプロジェクトだ。

当日はWeb3領域に関心のある多様なメンバーが、会場となるShibuya Stream Hallおよびオンライン会場に集結し、最新のWeb3トレンドをキャッチアップしていった。

本記事では、その中で「人口800人の限界集落が「NFT」を発行する理由」と題されたセッションについてレポートする。旧山古志村(現新潟県長岡市)によるNFTプロジェクト、ひいてはその先にある「山古志DAO」へのチャレンジについて、山古志住民会議代表の竹内 春華氏よりプレゼンテーションがなされた。

竹内 春華氏(Nishikigoi NFT/山古志住民会議代表:新潟市魚沼市出身。2007年、生活支援相談員として、山古志災害ボランティアセンターに所属。中越地震で被災した旧山古志村の住民が暮らす仮設住宅にて活動する。2008年、地域復興支援員として、住民主体の地域づくり団体「山古志住民会議」の事務局をつとめながら地域住民と各種事業をおこなう。2021年4月より山古志住民会議の代表を務める)

なぜ、山古志は世界に向けてNFTを発行したのか?

世界でも有数の豪雪地帯である山古志は、元々は地方自治法における“村”として存在していた地域。2005年4月1日に新潟県長岡市へと合併されたわけだが、自然湧水や横井戸といった地下水を活用した美しい棚田や、「牛の角突き」と呼ばれる闘牛大会など、豊かな自然に根ざした観光資源をもつことから、国内外問わずコアなファンが多い地域となっている。

そんな山古志村(当時)を襲ったのが、2004年10月23日に発生した新潟県中越大震災だ。現在の長岡市である旧川口町の直下を震源とした揺れは非常に激しく、阪神・淡路大震災以来の震度7を観測し、県内各所で大きな被害が発生した。山古志村においても、村の幹線道路のほとんどが分断されて全村に避難指示が出るなど、壊滅的被害を被ることになった。自衛隊のヘリコプターで、25km先の長岡市まで村民を避難させる様子がTVのニュースで流れたことは、15年以上経過した今でも記憶に残っている。

そんな状況ではあったものの、地域住民は「帰ろう山古志へ」をスローガンとして、数年がかりで山古志へと戻ることになる。それを実現させたのは、地域住民一人ひとりの努力はもちろん、その強い想いを受け取った村外からの支援ボランティアによる協力も大きかったと言う。現在、山古志住民会議の代表を務める竹内氏も、元々は2007年に生活支援相談員として、山古志災害ボランティアセンターに所属することになったメンバーの一人だ。

「震災から約18年、その間に出会った様々な方との繋がりをもとにして、私たちはデジタルアートと電子住民票を紐つけたグローバルなデジタル関係人口の創出プロジェクトを始めました」

それが、山古志のシンボルとも言える錦鯉を主題とした「Nishikigoi NFT」だ。錦鯉をモチーフにしたデジタルアートとなっており、山古志地域の「電子住民票」の意味合いを兼ねたものとして、10,000点がNFTとして発行されている(1点0.03ETH)。

「18年の間に出会った国内外の方々に対して、『あなたたちはゲストではなく山古志を作ってくれた一員なんだよ』と、どうにかしてしっかりとした形で認めてあげたいという想いがあって立ち上げたのがNishikigoi NFTとなります」

デジタル村民、山古志へと帰省する

Nishikigoi NFTプロジェクトは、オフィシャルパートナーとして長岡市が入ってはいるものの、その販売益は完全な独自財源として活用できるものとなっている。これは山古志地域にとっては非常に大きな収益源だ。

というのも、震災前は2,200近くいた住民が今では800程度に減少しており、今後もその数が飛躍的に増加するとは考えにくい。一方で合併後の長岡市の人口は約27万人。30分の1以下の人口ボリュームである山古志地域の予算規模は、どうしても相対的な観点で優先順位が低くなってしまうのが現状だ。

だからこそ、今回のNFTの販売益をそのまま独自財源として使えることは、山古志地域に必要なプロジェクトや課題解決を進めることができるという点で、非常に意義のある活動というわけだ。

もちろん財源以外にも、国内外のデジタル関係人口が増えることも大きなアドバンテージと言えるだろう。NFT購入者は「デジタル村民」として、Discordを中心としてコミュニケーションをとったりプロジェクトを進めたりすることができるのだが、そのデジタル上の活動がリアルへと還元されることもよくあるという。たとえばNFTを発行した2021年末あたりから、デジタル村民が実際に豪雪真っ只中の山古志へと帰省し始めたというのだ。以下のFacebook投稿は、デジタル村民による帰省第1号の様子だ。

ただし、これまで山古志を「非デジタル」の形で応援してきたメンバーの中からは、Nishikigoi NFTの動きを決して歓迎しない声も届いたという。

「これまで山古志を支援してくださった方から、電話やダイレクトメールで『山古志はもう俺たちのことはどうでもいいのか』とか『協力はもういらないのか』といった、胸に刺さるような言葉をいただきました。そんなことは決してありません。『今後はNFTだけを通して関係性を作っていくのか』というお声があったのですが、それも違います。『皆様の支えがあったからこそ、この挑戦ができる』ということを、できる限りメッセージするようにしています」

一方で、NFTやブロックチェーンの知識を全く持たないものの、デジタル村民に加わりたいというかつての支援者が多くいることもわかったという。

「安全にわかりやすくNFTを購入していただけないかを、デジタル村民の皆様に相談したところ、安全に購入できるまとめサイトを作ってくださる動きが、発行当初から生まれていきました」

こちらの記事はその一例だ。

▶︎NFTを購入する際にエンジニア目線で確認したい3つのポイント~ケーススタディ~

また、以下のツイートのように、プロジェクトの概要をわかりやすくまとめるケースも見受けられた。

このように賛否両論が巻き起こったものの、山古志の知名度は間違いなく向上し、関係人口が増加し、独自財源となるNFT販売収益も増えていった。

なお、Nishikigoi NFT立ち上げについての詳細の想いについては、是非こちらの竹内氏によるnote記事をご覧いただきたい。

▶︎世界初。人口800人の限界集落が「NFT」を発行する理由

山古志DAOに向けて、賛成100%で地域住民にNFTを無償配布

そんな山古志では今後、「山古志DAO」の運営にチャレンジしていくという。

※DAOについては以下の記事をご参照
DAO(分散型自律組織)とは?Web3時代に必須となるプロジェクト型組織運営のあり方を解

具体的には、「山古志デジタル村民総選挙」を実施して、山古志地域を存続させるためのアイデアプランを募集。デジタル村民の投票によってどのプランを実行に移すのかを意思決定し、実際にデジタル村民に一部の予算執行権限を付与してプロジェクト化して進めていくというものだ。

第1弾セールの売上については、約30%(約3ETH)を活動費として、投票によって決まった4つのプロジェクトにそれぞれ配分したという(約1.5ETH×1、約1ETH×1、約0.75ETH×2)。

「私たちが目指しているのは、山古志住民だけでなく、仲間であるデジタル村民も一緒のテーブルに並んでもらうということです。一方で、デジタル村民だけでどのプランがいいかを選ぶのは果たしていいのかという議論になり、リアル住民も一緒に選ぶ形を考えようとなりました。それに向けて、山古志地域の住民にNishikigoi NFTを無償で配布してはどうかという案の是非をデジタル村民に投票で問うたところ、なんと100%の賛成という、非常に胸が熱くなる投票結果となりました。これをもとに、住民の方にもNishikigoi NFTを配布し、総選挙に挑みました」

こうして現在、4つのプランが選ばれてプロジェクトが進んでいる状況だ。実はこの「Web3 Conference Tokyo Vol2」の前日に、xDXでもレポートを配信したグローバルカンファレンス「Metaverse Japan Summit 2022」が同じ会場で行われており、そこでも山古志村のデジタル村民の方が登壇していた。ここでも、関係人口の多さがより多くの人の認知向上に寄与するという、よりサイクルが生まれていることがわかるだろう。

山古志デジタル村民総選挙の投票によって選ばれた4つのプロジェクト概要

「ここに選ばれたプロジェクトはもちろん、それ以外にも色々なデジタル村民の方が多様な取り組みを進めてくださっています。ぜひ詳細は「Nishikigoi NFT ~yamakoshi~」Twitterアカウントをフォローしてご覧ください」

ちょうどこの記事を執筆している際は、長岡の花火大会が開かれていたタイミングであり、clusterでユニークな大根アバターを見つけたので、最後に貼っておくことにする。

※本セッションはこちらの動画でご覧いただけます。

編集後記

私自身、実は長岡市で出生した人間なのですが(長岡出身の長岡です)、少なからずご縁のある地域でこのような熱量の塊のような取り組みがなされていることに感動を覚えます。ここで語られたことはポジティブな側面がメインだったのですが、実際は地元住民も含めて様々な葛藤があっただろうと推察します。新しいことを行うので当然でしょう。そのような環境下においても着実にプロジェクトとして前進していることは、まさにDXプロジェクトの鑑だと感じます。あらゆる取り組みには熱量が不可欠であることを、改めて感じさせるプレゼンテーションでした。

取材/文:長岡武司

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