Web3の理解とテンションを上げるための極私的参考図書36選

Web3の理解とテンションを上げるための極私的参考図書36選

目次

メディアやSNSで「Web3」という言葉を聞く機会が多くなってきました。おそらくは、これから年末にかけて一気にトレンドとして跳ね上がり、翌年から一旦落ち着いた上で、少しずつ本当の社会実装が進んでいくと思われます。

そんなパラダイムシフトまっしぐらな時代を楽しむには、本屋に置いてある人気解説本を読むだけではもったいない!

今回は、最新のメタバース本から50年代サイバネティクス本、90年代カルチャー雑誌、粘菌本など、Web3時代を楽しむためのxDX編集長「極私的」選書を、36冊に厳選してお送りします。

※いずれの書籍写真も、編集長の長岡が自宅に置いていたものとなるので、一部よごれや折り目などがあります。ご了承ください。

Web3への水先案内

『テクノロジーが 予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』(伊藤 穰一 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4815616469/
出版社 ‏ : ‎ SBクリエイティブ (2022/6/7)
発売日 ‏ : ‎ 2022/6/7

編集長の一言:

以前こちらの記事でG.Gさん(高齢者DAO構築中のITジャーナリスト)がオススメしているとおり、Web3についてまっさらな状態なのであれば、まずはこの本から読むのが良いでしょう。Web3がここまで注目されている理由や、メタバース ・NFTとのつながり、それを裏付ける具体的な動向など、新書という適度なボリュームの中にギッチリと詰まっています。まさにWe3への水先案内役をになってくれる存在です。

『WIRED(ワイアード)VOL.44』(雑誌)

https://www.amazon.co.jp/dp/B09VC4YQQW/
出版社 ‏ : ‎ コンデナスト・ジャパン; 不定期刊版 (2022/3/14)
発売日 ‏ : ‎ 2022/3/14

編集長の一言:

伊藤 穰一さんの本が出るまで、「Web3をまるっと理解するための本を教えて」と言われたら紹介していたのがこちら。イーサリアムの共同創設者でありWeb3の提唱者でもあるギャヴィン・ウッドさんやへの単独インタビューや、Web3特化ファンド「Emoot」の共同創設者であるコムギさんによるまとめイラストなど、さすがWIREDという内容になっています。

メタバースを学ぶ

『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』(バーチャル美少女ねむ 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4297127555/
出版社 ‏ : ‎ 技術評論社 (2022/3/19)
発売日 ‏ : ‎ 2022/3/19

編集長の一言:

メタバース原住民のバーチャル美少女ねむさんによるメタバース本です。やはり実践者の説得力は違います。実際に長らくメタバースと物理世界とのデュアルライフをされているねむさんだからこその視点で語られるメタバースのこれまでとこれからの話は、非常に興奮するものとなっています。本書で語られる3つのコスプレ(アイデンティティ・コミュニケーション・経済)の考え方は特に必読です。あと個人的には、バーチャルセックスをテーマとするこれからの性のあり方の部分も非常に興味深い内容でした。

『メタバース さよならアトムの時代』(加藤 直人 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4087880753/
出版社 ‏ : ‎ 集英社 (2022/4/5)
発売日 ‏ : ‎ 2022/4/5

編集長の一言:

非常に読みやすく、かつ著者がメタバースプラットフォーム「cluster(クラスター)」を提供する会社の代表であることから、プラットフォームを開拓するサイドの視点からメタバースが考察されています。31頁以降で展開されるメタバースの定義については、ぜひ押さえておいていただきたいものとなっています(ちなみに上で紹介したねむさんの本の31頁にもメタバース定義案が掲載されており、こちらもオススメです。たまたま同じ頁ですね…)。第3章ではサイバネティクスや数学など、テクノロジー(道具)と人間の歴史についても言及されており、未来のみならずしっかりと過去を省みている点がとても好きな構成でした。

『ファンダムエコノミー入門 BTSから、クリエイターエコノミー、メタバースまで』(コクヨ野外学習センター 編集)

https://www.amazon.co.jp/dp/4833441292/
出版社 ‏ : ‎ プレジデント社 (2022/6/14) ※発行:黒鳥社
発売日 ‏ : ‎ 2022/6/14

編集長の一言:

「Web3やメタバース時代はクリエイターファーストの時代だ」なんて言われているけど、いまいちピンと来ない。そんな方に読んでもらいたいのがこちらの一冊です。ここ最近で注目されているDAO(分散型自律組織)の世界で、ファンがどのような存在になっていくのか。そして、クリエイターはどのようにファンと関わっていくことになるのか。かつてプロシューマー(生産者と消費者が一体となる概念)という言葉が流行りましたが、それのある種進化版として、クリエイターとファンの相補的な関係をテクノロジーがエンパワーするファンダム時代の幕開けを感じる内容となっています。この本を読む前に、数年前に話題になった『ファンベース』(佐藤 尚之 著)や『ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング』(小島 英揮 著)に目を通しておくと、より理解が深まると感じます(こちらの2冊はマーケティング色が強いですが、ファンダムエコノミー入門はより文化理論色が強いです)。個人的に、本書の中のヘンリー・ジェンキンズさんによるコメント「ファンダムは好奇心とフラストレーションの両方によってかたちづくられています。」(66頁)は、なんともわかりみが深いと感じた次第です。

『メタバースとWeb3』(國光 宏尚 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4295202819/
出版社 ‏ : ‎ エムディエヌコーポレーション (2022/3/30)
発売日 ‏ : ‎ 2022/3/30

編集長の一言:

「メタバースとWeb3とxRとNFTについて分かりやすく、かつサクッと読める本を教えて」と言われたら、迷わずこちらの國光 宏尚さんの本を紹介しています。僕が國光さんと聞いて真っ先に思い出すのは、実はクリプトでもgumiでもなく、セカンドライフで国内初の映画試写会を企画した人物だということ。20年以上も前からバーチャル空間での社会活動の可能性に着目していた方なので、とにかく分かりやすくWeb3とメタバースの未来が語られています。

『VR原論 人とテクノロジーの新しいリアル』(服部 桂 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4798158941/
出版社 ‏ : ‎ 翔泳社 (2019/5/22)
発売日 ‏ : ‎ 2019/5/22

編集長の一言:

後ほどご紹介するケヴィン・ケリーさん(『Wired』誌の創刊編集長)の本を何冊も翻訳されている服部桂さんによるVR本です。こちらは、1991年に出された『人口現実感の世界』(工業調査会)を、現代の内容にリニューアルしたもの。VR技術がどのように進化してきて現在に至るのかが、この一冊に詰まっています。歴史的な資料を引っ張り出して分析するのが好きな自分としては、興奮ものの一冊でした。個人的には、30年以上前に出された『人口現実感の世界』の方も、本書との比較資料としてオススメです(最初数ページのカラーページの技術のレトロ感が最高に好きです)。

『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』(佐藤 航陽 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4344039548/
出版社 ‏ : ‎ 幻冬舎 (2022/3/31)
発売日 ‏ : ‎ 2022/3/31

編集長の一言:

数年前に堀江貴文さんがどこかのイベントで「メタバースは宇宙産業と密接に関わる」(メタバースという単語を発していたかはあやふや)と聞いて、最初は全く意味が分からずイメージもつかなかったのですが、この本を読めばその真意がわかります。また、第二章と第三章で展開される「世界の創り方」は非常に面白く、特に生態系の創り方はぜひ読んでもらいたいパートになっています。

『セカンドライフ [Second Life] 創世記 3Dインターネット・ビジネスの衝撃』(鴨沢 浅葱, 山崎 潤一郎, 山崎 秀夫, 滑川 海彦, 増田 真樹, 渡辺 弘美, GMO Venture Partners株式会社 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4844324268/
出版社 ‏ : ‎ インプレス (2007/7/5)
発売日 ‏ : ‎ 2007/7/5

編集長の一言:

メタバースについて学ぶならば、これからのことを語る書籍だけでなく、「過去の一時点でどう捉えられていたか」を知ることも、また大事で面白い視点だと考えています。『セカンドライフ創世記』では、ご覧のとおりセカンドライフが大いに注目された2007年時点におけるIT領域の様々な有識者が寄稿しており、当時の思想に触れるのに非常に役立ちます。個人的には、リンデン・ラボ(セカンドライフの運営会社)による「所有権を保証するシステム」を誕生させたあたりの話(滑川 海彦さんパートの部分)が、今のWeb3の文脈と大いに重なって好きなパートとなっています。

ブロックチェーンとNFTとお金を学ぶ

『Blockchain Handbookfor Digital Identity 2018 volume 1 基礎からブロックチェーンを知るために必携のハンドブック』(若林恵 著)

出版社 ‏ : ‎ 黒鳥社 (2018/10/1)
発売日 ‏ : ‎ 2018/10/1

編集長の一言:

ブロックチェーンとは何なのか。そのあらましを簡潔に、そしてわかりやすく解説したものとして、いつもこの本をオススメしています。『WIRED』日本版 元編集長の若林 恵さんがクリエイティブディレクションをしているもので、外装含めてとてもかっこいい本に仕上がっている点も特徴です。ただし、現在入手が困難なようです。オンラインでは流通が見当たりませんが、執筆時点(2022年6月17日現在)でSHIBUYA TSUTAYAにはまだ在庫があるようです。気になる方は問い合わせてみてはいかがでしょうか。

『ブロックチェーン・レボリューション ――ビットコインを支える技術はどのようにビジネスと経済、そして世界を変えるのか』(ドン・タプスコット, アレックス・タプスコット 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4478069964/
出版社 ‏ : ‎ ダイヤモンド社 (2016/12/2)
発売日 ‏ : ‎ 2016/12/2

編集長の一言:

2017年末に仮想通貨ブーム(現在の暗号資産)が到来して「ブロックチェーンのことをちゃんと勉強しなければ!」と思って手に取ったのが、こちらの一冊。タイトルにあるとおり、ブロックチェーンがいかに革新的な技術で、既存の社会システムに大きな影響を与えるかが語られています。2017年末時点に読んだときは「10年はかかるだろう」と思っていたことも、2022年にはすでに実現していることもあり、テクノロジーの加速度的な進化に圧倒されます。ブロックチェーンという技術のすごさを理解するのに最適な本だと思います。

『WIRED VOL.25/特集 The Power of Blockchain ブロックチェーンは世界を変える』(雑誌)

https://www.amazon.co.jp/dp/B01JRDPAGO/
出版社 ‏ : ‎ コンデナスト・ジャパン; 不定版 (2016/10/11)
発売日 ‏ : ‎ 2016/10/11

編集長の一言:

おそらくは僕がブロックチェーンという言葉を最初に知るきっかけとなったのが、このWIRED誌です。すでに5年以上前の特集ですが、今読んでも興奮する内容となっています。現在、Astar Networkのファウンダーで世界のWeb3ムーブメントを日本から牽引している起業家・渡辺創太さんは、このWIREDにあるLuis Iván Cuende(ルイス・アイヴァン・クエンデ)さんのインタビュー記事を読んで、ブロックチェーンの領域に入っていったとのこと(Web版の記事はこちら)。改めてWIREDの影響力の高さを感じます。

『だれにでもわかる NFTの解説書』(足立明穂 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4910519017/
出版社 ‏ : ‎ ライブパブリッシング (2021/11/8)
発売日 ‏ : ‎ 2021/11/8

編集長の一言:

「NFTって要するに何なんだ?」と聞かれたら、こちらの本を渡すようにしてます。構成としてはアート領域を中心に扱っていますが、第3章の「NFTの可能性」でNFTの本質的な価値を理解することができるでしょう。個人的には冒頭でご紹介した伊藤 穰一さんの本とセットで読むと、より理解が深まると思います。

『ビットコインはチグリス川を漂う――マネーテクノロジーの未来史』(デイヴィッド・バーチ 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4622086948/
出版社 ‏ : ‎ みすず書房 (2018/5/17)
発売日 ‏ : ‎ 2018/5/17

編集長の一言:

ブロックチェーンがもたらした革命の一つは、僕たちとお金にまつわるリレーションにある感じています。そんな未来のお金のあり方について、じっくりと論じられているのがこちらの本。「言われてみれば、お金ってずっと前からビットの世界の話になってるよね」と思えてきます。中央銀行を必要としないマネーのあり方とはどういうことなのか。IoT(本書では“シングスインターネット”と表現)前提時代のお金のあり方を考えるきっかけになるでしょう。

『現代経済学の直観的方法』(長沼 伸一郎 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4065195039/
出版社 ‏ : ‎ 講談社 (2020/4/9)
発売日 ‏ : ‎ 2020/4/9

編集長の一言:

国際経済学部出身にもかかわらず経済音痴な自分が「こりゃいかん」ということで手に取った一冊がこちら。我ながら素晴らしいチョイスだったと思います。「経済というものが全くわからず予備知識もほとんどない(ただし読書(レベルは高い読者)」に向けた内容になっていると本書冒頭で示されているとおり、これ一冊でマンキュー経済学のミクロ編とマクロ編の知識をカバーし、且つこれからの経済システムへの前提知識も手に入れることができます。暗号資産とブロックチェーンについても、その延長で第8章で論じられているので、まずはそこから入るのも良いと思います。

アイデンティティと所有のこれから

『デジタルアイデンティティー 経営者が知らないサイバービジネスの核心』(崎村 夏彦 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4296109901/
出版社 ‏ : ‎ 日経BP (2021/7/16)
発売日 ‏ : ‎ 2021/7/16

編集長の一言:

デジタルアイデンティティと聞くと、メタバース空間におけるアバターのようなアウトプットをイメージされる方が多いと思います。それはそれで正しいのですが、本質的にはもっと広義な、デジタル空間における「個」のあり方を考えるべきものだと言えます。本書では、デジタルファースト、ひいてはバーチャルファースト時代のアイデンティティをどのように捉えるべきかについて、比較的技術的なアプローチから解説がなされています。ネット空間上における認証の仕組みやその標準、そこから見える未来のトラストのあり方について、OpenID Foundation理事長である崎村 夏彦さんが詳しく解説してくれています。ネット空間上で、何かしらのID・パスワードでのログインが必要なサービスを使っている人(ビジネスパーソンであればほとんど全員でしょう)にとっての必携書です。

『さよなら、インターネット――GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(武邑 光裕 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4478105847/
出版社 ‏ : ‎ ダイヤモンド社 (2018/6/21)
発売日 ‏ : ‎ 2018/6/21

編集長ひとこと:

イノベーションを考えるにあたっては、「規制とは何か」を理解することも重要です。本書は、欧州のGDPRをテーマに、インターネット空間における規制のあり方が論じられています。デジタルアイデンティティを取り巻く議論には様々なテーマがありますが、その中でもSSI(Self-Sovereign Identity:自己主権型アイデンティティ)について詳しく知りたいという方は、こちらの本がオススメです。

『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(武邑 光裕 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4991126037/
出版社 ‏ : ‎ 黒鳥社 (2020/11/30)
発売日 ‏ : ‎ 2020/11/30

編集長ひとこと:

こちらも上と同じく、メディア美学者・武邑 光裕さんによる書籍です。こちらはテーマが「プライバシー」ということで、透明性の時代を生きる僕たちが自身のプライバシーをどのように捉えるべきかを論じたものになっています。監視資本主義というディストピアに向かうか、そうではなくWeb3で語られる明るい未来が待っているのか。その分水嶺に立たされていることを改めて実感する内容でした。

『私的所有論 第2版』(立岩真也 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4865000062/
出版社 ‏ : ‎ 生活書院; 第2版 (2013/5/27)
発売日 ‏ : ‎ 2013/5/27

編集長ひとこと:

Web3を考えるにあたって、「所有」の概念は非常に重要だと捉えています。そもそも、僕たちが「私」と「公」を分けて考えるのは何故なのか。何をもって「自分のものだ」と認識しているのか。そして、自分が持つもの(能力)に差分があることを前提に、受け取れるものが変わってくることが良しとされているのは何故なのか。このような議論について、900頁近くかけて論じられています。コロコロコミック並に分厚い本で、かつ第2版のこちらは文字も小さく読みやすさに難有りですが、Web3時代を迎えるにあたって一度はじっくりと読んでみるべき本だと捉えています。ちなみに僕の場合、大学時代に第1版のハードカバー版を手に取って「面白い!」と思って読み進めたものの、途中から難解になって文字量も多く、200頁あたりで挫折した経緯があります。よって読了したのは数年前になってからです。お正月や夏休みなど、まとまった時間を取れるタイミングで一気に読み進めるのが良いと感じました。

改めて、インターネットを考える

『DX時代に考える シン・インターネット』(村井 純, 竹中 直純 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4797680806/
出版社 ‏ : ‎ 集英社インターナショナル (2021/8/6)
発売日 ‏ : ‎ 2021/8/6

編集長ひとこと:

日本のインターネットの父と呼ばれている村井 純さんと、ひろゆきさんもボードメンバーに名を連ねる有限会社未来検索ブラジルの代表・竹中直純さんによる対談新書です。インターネットというものがどのような経緯で誕生し、いかなる紆余曲折を経て今のような形になったのか、当事者のお二人による振り返りが非常に面白いです。Web3は要するに、新しいインターネット社会のあり方に関するムーブメントでありパラダイムシフトだからこそ、そもそものインターネットの思想をお二人の実体験ベースで探れる本書はとても貴重だと思います。

『骰子 DICE between rough and ice』(雑誌)

出版社:アップリンク (1995/6/26)
発売日 ‏ : ‎ 1995/6/26

編集長ひとこと:

映画会社アップリンクが1993年から数年の間出版していたサブカル雑誌『骰子(だいす)』では、ちょうどインターネットの民主化が始まったタイミングであったことが相まって、インターネット活用に関する大特集・ミニ特集があちこちにあります。たとえば初期の第1巻第5号では「夢から醒めた電気羊【インターネットの巻】」という対談特集が組まれており、そこで黎明期のインターネットが、まさに個人同士のコミュニケーションを革新するダイナミズム溢れる媒介として語られています。もちろん、監視社会への警笛もサブカル雑誌らしくしっかりと取り上げているのですが、それ以上に皆がワクワクしている雰囲気が紙からムンムンと伝わってきます。30年近くの時を超えて、Web3の熱気と非常にリンクしていると感じます。

いろいろな自律分散

『自然経営 ダイヤモンドメディアが開拓した次世代ティール組織』(武井浩三, 天外伺朗 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4862574777/
出版社 ‏ : ‎ 内外出版社; 四六版 (2019/9/20)
発売日 ‏ : ‎ 2019/9/20

編集長ひとこと:

カテゴリーとしては組織論についてなのですが、そのアプローチが非常にユニークで、ある種の生命体としての組織のあり方について「自然(じねん)経営」というキーワードから探っています。著者の一人である武井 浩三さんは、ティール組織という言葉が世の中でバズるずっと前から、創業した不動産テック企業・ダイヤモンドメディア株式会社でティールな組織運営を実践されてきた人物です(ご本人はティールなんてこれっぽっちも意識していなかったとおっしゃっていました)。Web3でキーワードとなる自律分散の「自律」の部分を捉えるのに最適な本だと思います。なお、武井さん自身が一種のメディアとしてユニークな情報発信の媒体機能を有していると感じるので、ぜひFacebookなどでフォローされると良いと思います。

『粘菌 知性のはじまりとそのサイエンス: 特徴から研究の歴史、動画撮影法、アート、人工知能への応用まで』(ジャスパー・シャープ, ティム・グラバム 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4416717202/
出版社 ‏ : ‎ 誠文堂新光社 (2017/12/7)
発売日 ‏ : ‎ 2017/12/7

編集長ひとこと:

自律分散と聞いて、網の目状にエンティティがつながるイメージを想像する人は多いと思います。「これ、どこかで見たことあるな」と思っている中、ふとしたきっかけで本屋さんで見つけたのが粘菌に関する本でした。こちらは粘菌・変形菌に関する映画『The Creeping Garden』の関連本なのですが、粘菌の生態はもちろん、テックとの融合も含めて広く解説がなされており、Web3のあり方を“直観的”にイメージするのに良いと感じています。13章「粘菌とコンピューター」や14章「知性とロボット」部分は、テック好きに限らず非常に面白いと思います。

オルタナティブなあり方

『スペクテイター〈48号〉パソコンとヒッピー』(雑誌)

https://www.amazon.co.jp/dp/4344954181/
出版社 ‏ : ‎ 幻冬舎 (2021/6/10)
発売日 ‏ : ‎ 2021/6/10

編集長ひとこと:

Web3は、提唱者であるギャヴィン・ウッドさんもおっしゃっているとおり、昨今のWeb2.0的な社会に対するカウンターカルチャー的な側面が強いと感じます。その様相はかつてのヒッピー文化に通じるものがあり、テクノロジーの進化と併せて捉えるのが自然な流れだと言えます。こちらのSpectatorの特集「パソコンとヒッピー」では、まさにコンピューターというデバイスの進化からPOWER TO THE PEOPLEの経緯と様子を描いています。この時の熱量とユートピアへの羨望は、今のWeb3の熱量と通じるものがあり、極私的参考図書に加えました。

『演劇理論雑誌 季刊地下演劇 創刊号』(雑誌)

出版社:グロオバル社 (1969/5/1)
発売日 ‏ : ‎1969/5/1

編集長ひとこと:

この特集に入れようか悩み、一度外して、でも「入れてしまえ」と思って入れた一冊。劇作家の寺山修司さん主宰「天井桟敷」の天井桟敷館が発行していた雑誌「地下演劇」の創刊号です。この号の冒頭に「劇的想像力」という寺山さんによる寄稿があるのですが、その中で「劇場的なるもの」への言及があり、ある限られた「解放区」としての劇場観が語られています。メタバースにおける分人経済を考えた際に、人生はそのままの大河演劇であり、そのためのワールドが複数存在するという日常が、まさに今始まろうとしています。そんな中で、僕たちはどこに「解放区」を見出すのか。そんなことをぼんやりと考えながら、エロス的な現実を憂う時間を過ごすのでした。こちらは当然ながらAmazonでの取り扱いはなく、古本流通をチェックするしかありません。興味のある方は、国立国会図書館で見てみるのも良いでしょう。

道具学

『対訳 技術の正体 The True Nature of Technology』(木田 元 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4906905072/
出版社 ‏ : ‎ デコ (2013/11/8)
発売日 ‏ : ‎ 2013/11/8

編集長ひとこと:

テクノロジーとは、言うなれば「道具」です。道具の性質がモノからデータへと大きく変わって久しい現代社会ですが、僕たちは果たしてどのように道具と接すれば良いのか。そんな道具との距離感を考えるにあたって、いつも立ち返って読んでいるのがこちらの書籍です。「人間が理性によって技術をコントロールできるというのはとんだ思いあがりではないか。」この強烈なフレーズを忘れることはありません。テクノロジー万歳時代となったWeb2.0への牽制の意味も込めて、この本を極私的参考図書に加えました。

『コンヴィヴィアリティのための道具』(イヴァン・イリイチ 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4480096884/
出版社 ‏ : ‎ 筑摩書房 (2015/10/7)
発売日 ‏ : ‎ 2015/10/7

編集長ひとこと:

上でご紹介した「対訳 技術の正体」と同じく、行き過ぎた道具の使い方(それから、道具へと極度に依存したあり方)に待ったをかけ、コンヴィヴィアルな道具のあり方を模索する、ウィーンの思想家であるイヴァン・イリイチさんによる文庫文です。コンヴィヴィアルとは、自立共生と翻訳されていますが、要するに相互補完的に成長していくことを表す言葉です。道具をもって人は成長し、またそれに併せて道具も心地よい形へと進化する。まさに「塩梅」の話です。Web3時代はZ世代を中心として、この良い塩梅の道具との付き合い方を模索していくのではないでしょうか。

『ロボット工学と仏教 AI時代の科学の限界と可能性』(森 政弘, 上出 寛子 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4333027845/
出版社 ‏ : ‎ 佼成出版社 (2018/6/27)
発売日 ‏ : ‎ 2018/6/27

編集長ひとこと:

ロボット開発やCGデザインの文脈でよく語られる「不気味の谷現象」を提唱した工学博士・森 政弘さんによる仏教解説本です。名古屋大学 特任准教授の上出 寛子さんとの往復書簡(メールのやりとり)という形で話が進んでいくのですが、仏教の考えがテクノロジー社会に貢献できることを、ゆっくりと丁寧に、かつ強烈なメッセージとともに発されています。本書で何度も出てくる「三性の理」の考え方は、Web3時代に限らず、あらゆる社会生活で意識したいものだと感じます。

『デザインの鍵―人間・建築・方法』(池辺 陽 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4621042149/
出版社 ‏ : ‎ 丸善 (1996/10/1)
発売日 ‏ : ‎ 1996/10/1

編集長ひとこと:

メタバース時代は、ワールドを設計する力が重宝されると想像できるのですが、その際に重要となるのがデザイン・リテラシーでしょう。フロンティアが存在する物理世界とは違い、無限に空間を創出できるメタバースの世界では、どんな空間設計力が必要になるのか。このような未来の命題を突きつけられたときは、毎度基本に立ち返ってデザインのイロハを確認したいと思い、いつもこの本を見返しています。建築学を前提にしていますが、僕たちが生活する世界のあらゆるUXを考えるためのバイブルだと捉えており、Web3時代・メタバース時代にも重宝すると感じています。

『ウィーナー サイバネティックス――動物と機械における制御と通信』(ノーバート・ウィーナー 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/400339481X/
出版社 ‏ : ‎ 岩波書店 (2011/6/17)
発売日 ‏ : ‎ 2011/6/17

編集長ひとこと:

最初の方で紹介した『メタバース さよならアトムの時代』(加藤 直人 著)にも記載されているとおり、メタバースを捉える際には機械の歴史を振り返ることも重要な視点です。その中で個人的に注目しているのが、ノーバート・ウィーナーさんが提唱したサイバネティクス理論です。サイバネティクス理論は、人と機械のインターオペラビリティを捉える学問領域として、リアルとデジタルが高度に融合するWeb3時代(日本政府的にはSociety 5.0時代)のヒントになると感じています。数式などが出てくるので、僕のような文系人間の方はその部分だけ読み飛ばしながら、道具と人間の関わり合いと態度に対するエッセンスを読み解くようにすると良いでしょう。ちなみに写真に写っている「人間機械論 サイバネティクスと社会」は、現在流通している書籍「人間機械論」の第1版バージョンです。言い回しが古いので圧倒的に読みにくいですが、それでもテンションの上がる内容です。

『「複雑系」を超えて―システムを永久進化させる9つの法則』(ケヴィン・ケリー 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4756130186/
出版社 ‏ : ‎ アスキー (1999/1/1)
発売日 ‏ : ‎ 1999/1/1

編集長ひとこと:

米雑誌『Wired』の創刊編集長として、世界中のテックスタートアップに影響をもたらしている思想家のケヴィン・ケリーさんによる1999年出版本です。Web3は、非中央集権型の社会のあり方であり、従来の中央集権的なシステムと比較すると、圧倒的に“複雑な系”であると言えます。こちらの書籍は、そんな複雑系を捉えるためのコンパスのようなものだと捉えています。これを読むと、「だからケヴィン・ケリーさんは未来を読む力が高いんだ」と改めて感じる次第です。第12章でクリプト・アナーキー(暗号による無政府状態)についても言及されており、自立分散型社会におけるマネーのあり方に興味のある方は、ここだけを読んでみてもいいかもしれません。

フューチャーリテラシーに向けて

『なめらかな社会とその敵』(鈴木 健 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4326602473/
出版社 ‏ : ‎ 勁草書房 (2013/1/28)
発売日 ‏ : ‎ 2013/1/28

編集長ひとこと:

ブロックチェーンなどの技術とは全く違うアプローチから、現在のWeb3に通じる「分人民主主義」などの考えを示した、非常に先進的な書籍です。野球選手のイチローさんとラーメン店の関係性は、今日注目されているNFTを理解する上で非常に分かりやすいケースだと感じます(この頃はまだNFTという表現はなされていません)。ブロックチェーンが基盤になるWeb3時代においては、ここで語られている分人民主主義の実現も、そう遠くはないのかもしれないと感じる次第です。

『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』(加藤 文元 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/404400417X/
出版社 ‏ : ‎ KADOKAWA (2019/4/25)
発売日 ‏ : ‎ 2019/4/25


編集長ひとこと:

京都大学の望月新一教授が2012年に発表した数学理論「宇宙際タイヒミュラー理論(Inter-universal Teichmuller Theory)」について解説した書籍です。ここで説明されている、これまでの数学で所与とされていた「たし算」と「かけ算」を分離する考え方(丸めすぎなので詳細はこちらをご覧ください。この記事も相当に丸めてはいますが…)は非常に斬新で、「そんなこと、可能なの?」と思わせられます。先ほどご紹介した『メタバース さよならアトムの時代』(加藤 直人 著)でも記載されているとおり、数学とテクノロジーは不可分の関係にあり、数学理論の延長にテクノロジーの未来があるとすら言えます。数学ど素人の僕ではありますが、宇宙際タイヒミュラー理論の一つの側面で語られているインターオペラビリティ的な考えは、これからのメタバース ・Web3社会にも大きな変革をもたらすのではないかと妄想しています。もちろん、中長期的な目線での想像です。

『妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』(暦本 純一 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4396617488/
出版社 ‏ : ‎ 祥伝社 (2021/2/1)
発売日 ‏ : ‎ 2021/2/1

編集長ひとこと:

現在のWeb3議論はまだ極めてプロトコルレベルでの話が多く、多くの人の日常にWeb3が浸透するには、まだまだ時間がかかりそうです。Web2.0時代も、最初のうちはどんなサービスが浸透するのかイメージできませんでしたが、そのうちFacebookが登場し、Instagramが登場し、そしてTikTokが登場してきました。2歩先の未来をイメージする「妄想力」が武器になる。そんな時代に向けてオススメしたいのがこちらの『妄想する頭 思考する手』です。最近ではSFプロトタイピングなんて手法も出てきていますが、マルチタッチインターフェース「スマートスキン」などを発明した暦本 純一さんによる妄想力向上のアプローチはとても参考になります。キーワードは「天使度」と「悪魔度」。ぜひ、イベント取材したこちらの記事もご参考として読んでみてください。

『退行の時代を生きる ―人びとはなぜレトロピアに魅せられるのか』(ジグムント・バウマン 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4791771133/
出版社 ‏ : ‎ 青土社 (2018/10/25)
発売日 ‏ : ‎ 2018/10/25

編集長ひとこと:

今の時代、日常生活・仕事・民間・行政、あらゆるレイヤーで変化が求められています。DXで既存の枠組みを破壊して再構築し、Web3で行き過ぎたデジタル産業主義の仕組みを是正する。変化が激しいからこそ、人々は走り続けなければならず、当然ながらそのスピードについていけない人や、途中で息切れを起こす人が多発するでしょう。その反動として、特にコロナ禍から顕著になっていると感じるのがノスタルジーへの懐古です。過去に“固執”することは前向きになれないのでよくないとは思いますが、僕は、“意識的”に過去へと退行してバランスをとることが悪いことだとは決して思いません。メタバース時代では分人経済が成り立つからこそ、物理世界では後ろ指を刺されやすい「過去への退行」を、積極的にやってみてもいいのではないか。そんな思いからこちらの本を極私的参考図書に加えました。

『神話の法則 夢を語る技術』(クリストファー・ボグラー 著)

https://www.amazon.co.jp/dp/4990487508/
出版社 ‏ : ‎ ストーリーアーツ&サイエンス研究所 (2010/2/1)
発売日 ‏ : ‎ 2010/2/1

編集長ひとこと:

Web3時代はコミュニティファーストな組織運営になることが現時点では想定されています。人々は気になるプロジェクトに参加してコントリビューションし、その対価としてトークンをもらう。そのトークンを別のプロジェクトへと先行投資し、また同様にコントリビューションしながらトークンを得る。このような、既存の金融の枠組みとは全く別の“クリプトエコノミー”がWeb3時代のビジネス選択肢として普及していくことが考えられます。その際に重要となるのが、ストーリーテリングでしょう。Web2.0時代は、Google検索結果の上位に上がることが注目のためのバロメーターの一つでしたが、Web3時代は間違いなく、プロジェクトが持つ独自のストーリーや想いへの共感が主要なポイントになります。ここに挙げた「神話の法則」は、世界中の神話をベースに標準化したストーリーテリングの「フレームワーク」を解説するものです。フレームワークの軸は大きく2つ、昔から演劇で重宝されている三幕構成をベースにした物語の流れと魅力的なキャラクターの配置です。こちらは、ハリウッドでの映画製作(厳密には脚本開発)でも大いに活用されているもので、著者のクリストファー・ボグラーさんはハリウッドの著名なストーリーコンサルタントの一人とのことです。これを読んだからと言ってストーリーテリング力がすぐに上がるわけではありません。ですが、共感(もっというと没入的な同一化現象)を得るための基礎リテラシーとして、Web3時代の教科書の一つになるべきだと考え、こちらの本を極私的参考図書のラストに加えました。

文:長岡武司

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