不動産と「NFTfi」は相性がいい!Web3時代の新たな資産価値の創出を考える
目次
巨大産業のひとつである不動産業界。業界特有の商慣習が今でも根付くレガシーな業界、というイメージが強いかもしれないが、昨今では大手企業やベンチャー、スタートアップといった多くの企業が“不動産DX”に取り組んでいる。
またグローバルを含めた視点で捉えると、さまざまなWeb3における不動産プロジェクトが立ち上がっており、DAOやNFTといったWeb3ならではの組織や技術の新たなユースケースを模索しているような状況となっている。
@yasuanii と @ryujino1109 によって作成
中でもユニークな事業を行っているのが株式会社Zofukuだろう。同社では2021年3月より暗号資産決済の不動産売買仲介サービスを開始しており、また同年6月には、日本初となるステーブルコイン決済の賃貸借契約を締結している。
具体的にどんな未来を描いているのか。今回はZofukuで代表取締役を務める新倉康明氏(@yasuanii)に、不動産×ブロックチェーンの可能性や、不動産の所有権にまつわるトークン(NFT)を発行することで生まれる新しい経済圏についてのお話を伺った。
消去法でたどり着いた「起業」
新倉氏はもともと、日本フットサルリーグ(Fリーグ)の選手として活躍していたバックグラウンドを持つ人物。アスリートのセカンドキャリアとして選択したのが、起業家の道だったのだ。
「中央集権的なピラミッド構造でも指導者や執行役などの中央が優秀であれば良いわけだが、上の立場の人の要望と自分が貢献できるポイントが噛み合わなかったり、政治的な働きが過度に必要だったり、目的の達成とは異なる力が働く状況では限界がある」と感じていたという新倉氏は、起業のきっかけをこのように話す。
「他のマイナースポーツと同様に、フットサルはリーグの規模自体が小さく、それ単体を職業するにはなかなか難しい状況でした。私自身、大学の途中からフットサルリーグの選手として出ていたこともあり、しばらく続けていたんです。大学卒業後も大学院に通いながら選手生活を続けていて、いわば学生の身分があるからこそ、フットサルに打ち込めていたのもあると思います」
新倉氏の周囲の選手は就活のタイミングで辞めるケースが多く、スポンサー企業で働くかクラブチームのスタッフとして関わるかが進路の選択肢として一般的だったと言う。
「私も一応、選手をやりながら仕事ができる就職先を探そうと就活をしましたが、条件にマッチする会社を探すのにひと苦労で(笑)。自分で探すのは労力がかかってしまい、これは無理だと思ったんですよ。そのような背景から、消去法でたどり着いたのが起業の道でした」
ビットコインの購入経験がWeb3に興味を持つきっかけに
Web3領域に興味を持ったのは、ビットコインの購入経験が起点だったと続ける新倉氏。フットサルの練習前は、暗号資産の知識を深めるために関連書籍をよく読んでいたと言い、「ビットコインなら、まだ機関投資家が積極的に参入していないため、自分の資産を守るためにも学んだ方がいい」と、当時の考えを振り返る。
「実は株式投資も少しだけかじっていましたが、全然面白く感じなかったんです。というのも、ファンドや証券会社が市場を動かしている金融マーケットにおいて、個人がプロの投資家に勝てるわけがないと感じたからです。他方、ビットコインに代表される暗号資産なら、個人でも勝算があるのではと思っていたので、関連する知見や情報のキャッチアップをしていきました」
では、なぜ不動産を事業領域に選んだのかというと、新倉氏の実家が地方に小さなアパートを持っており、「将来的な土地の管理を見据えると、宅建資格などの専門的知識を身につけておいた方が後々になって役立つと思っていたから」だと新倉氏は述べる。
さらに、産業のレイヤー構造を考えた際、ブロックチェーン技術はどんな業界においても最下部に位置するプロトコルレイヤーに該当する。つまり、いずれWeb3が主流になったとしても、プロトコルレイヤーで企業価値を出せていれば、どの業界にも転用できる。
そのような観点から、不動産×ブロックチェーンに主軸を置いたビジネスを展開するに至ったという。
日本の不動産業界はブロックチェーンと相性が良くない
現在、Zofukuで展開している事業は不動産仲介業に加え、分散型ブロックチェーンデータセンターの管理、そして暗号資産で不動産NFTを発行・売買できるP2Pマーケットプレイス「zofuku.xyz(仮称)」となっている。
不動産をトークン化(NFTing)し、NFTをDeFiで利用する「NFTfi」(エヌエフティーファイ、実物世界の資産をオンチェーンに持ってくること)や、P2Pトランザクション(個人間取引)で不動産売買ができるような世界を目指す新倉氏は、ターゲットとするマーケットについて「日本とグローバルとで分けて考えている」と述べる。
「島国特有の法律のもとに独特の商慣習が根付いている日本の不動産業界は、言ってしまえば暗黙の了解で物事が進んでいく側面もあるわけで、パブリックブロックチェーンやスマートコントラクトの実装とは相性が良いとは言えないと考えています。そういう意味では、20~30年先の未来を考えてみても、国内の不動産業界がNFTを担保資産として、デジタル上で資産運用するようになっているとは思えず、そこまで広がらないのではと個人的な所感を持っています。なので、グローバルでは現実世界の資産をオンチェーンで利用するためのプロトコルを開発・展開していくことを視野に入れ、日本ではその上のレイヤーであるDAppsを提供できたらと思っています」
不動産業界は、情報の非対称性を活かして既得権益層がいい思いをしているという部分も大いにあると言える。その一方で、不動産業界に長く根付く伝統的な取引は不要というニーズも顕在化してくると新倉氏は予想している。
一方で、不動産のデジタル取引における本人確認の壁や、犯罪収益移転防止法における特定事業者として宅建事業者が位置付けられている点など、現行の状況や制度下においては“ビジネスとしての落としどころ”がなかなか難しくなっているのもの確かだという。
「不動産大手がブロックチェーンに入ってこれないのは、ビジネスの不確実性が高く、今後どうなるかが読めないからです。今まで不動産の運用と言えば、建てる・売る・貸すの3つが主でしたが、そこに『不動産をトークン化する』という4つ目の運用方法を、我々は提案していきたいと考えています。ですが、特に日本では最適な落としどころを見つけないとビジネスとして成立させるのは難しいので、その辺りは色々と模索していきたいと考えています」
不動産をDeFiやNFTfiと結びつけることで新たな資産価値が生まれる
では、その落としどころを新倉氏はどのように捉えているのだろうか。同氏は「3つの観点からアプローチしていくことで、不動産業界に新たな潮流を生み出すことにつながる」と説明する。
「今まで、不動産投資ができなかった層でも、本当に価値の高い不動産に投資できるようになるメリットが期待できます。また、不動産NFTを用いた資金調達も考えられるでしょう。例を挙げると、完成する前のホテルやマンションの宿泊権利などをNFTのユーティリティとして持たせ、クラウドファンディングのような形で、先に資金を調達するようなケースです。NFT所有者はオンチェーンにトランザクションが残っているため、トラストレスで購入した宿泊権利を享受することが可能になっています」
たとえばホテルの企画・販売・運営を行うNOT A HOTEL株式会社では、毎年1日単位で利用できる宿泊権と、イベント参加などの特典を合わせたメンバーシップのNFTを2022年夏に販売開始しており、Web3界隈を超えた多様なビジネス界隈で注目された。まさにこのようなNFTの活かし方が、不動産領域での一つのユースケースと言えるだろう。
「そのほか、ウォレットが普及してくると、銀行を通さずに決済できる流れも活発化すると思います。いわばスマートコントラクトが不動産取引の仲介役(エスクロー)を担い、契約の自動執行につながります。ただ、契約のスマートコントラクト化はハッキングリスクと隣り合わせなので、その辺りのバランスをどうもたせるかが肝になってきます」
世の中には、金融商品として結びついてない不動産がたくさん存在しており、不動産NFTは資産価値の再評価につながるという。さらにDeFiやNFTfiといった金融と結びつけることで、新しいビジネスチャンスが生まれる可能性を秘めているわけだ。
新倉氏は、最終的に分散型社会が浸透し、Web3不動産という市場が開拓された世界では、「その瞬間、そのときに最適で居心地のいい場所に自分がいることが幸福度を高めてくれる」と胸を膨らませる。
「究極的に身のまわりがすべてブロックチェーンに乗ってきて、DAO化されてくれば、自分主体でなんでも設定できるような世界が広がっていくと思うんです。そこで大事になってくるのは自分自身の意思です。自分のいたいコミュニティ、自分の住みたい国、自分が送りたいライフスタイルなどを自由に選べるわけですが、例えば自分が1年のうちシンガポールに3ヶ月、ドバイに2ヶ月、残りを日本で過ごすとなったときに、今のままだと所有する不動産の管理や運用のバランスがおかしくなってしまいます。将来的に不動産の取引をワンクリックで完結し、NFTfiで不動産の貸し借りを個人間でできるようにするため、不動産取引の下側のインフラとなるプロトコルが必要不可欠になってきます」
不動産をトークン化し、NFTfiで持続可能なトークノミクスを実現させる
来年には、ドバイに移住する計画を立てている新倉氏。「最終的には、現実世界の不動産をオンチェーン/DeFiに結びつけたサービスやネットワークのトークンを出したい」と意気込む同氏に、最後に、今後の展望やグローバルでの取り組みについて話を聞いた。
「不動産取引におけるスマートコントラクト化は、先にも述べた法的な課題が多く、難しい領域だと思っていますが、不動産をトークン化し、NFTfiで持続可能なトークノミクスを実現するパイオニアになっていければと思っています。ブロックチェーンの最大の利点はトラストレスですが、不動産NFTが普及してくれば、既存の不動産投資や不動産売買などの投機的な視点でみたときに、不動産の価値を見定める判断材料も変わってくると捉えています。我々も不動産NFTのサービスを通じて、より多くのユーザーが不動産NFTを活用する世界を目指していければと思っています」
ライター後記
不動産 × ブロックチェーンのスタートアップがどう未来を見据えているのか。レガシーと呼ばれる不動産業界でWeb3が浸透したらどのような結果になるのか。今回のZofukuの取材で少し輪郭が見えたような気がした。
昔からの商習慣が根強い業界こそ、最新のテクノロジーを取り入れていくのは時間がかかるかもしれない。それでも、果敢に挑むスタートアップが多くいるということは、それだけWeb3の可能性が計り知れない証左といえるのではないだろうか。
新倉氏の今後の活躍に期待したい。
取材/文/撮影:古田島大介
編集:長岡 武司